
研究内容の紹介
消化管グループ
病態情報内科学の重点研究領域は1)遺伝子治療・再生医療;2)細胞傷害・保護;3)臓器
不全;4)遺伝子診断・分子疫学であり、従来の医療にそれぞれ分子レベル、細胞レベル、臓
器レベル、社会レベルで新しい要素を加えていきたいと考えている。消化管グループでは1)細
胞形質の調節因子とその機構;2)微小循環、消化管免疫;3)発癌機構とその抑制;4)難治
性疾患に対する臨床解析を通じてこれらにアプローチしている。
具体的な研究テーマとして以下のようなプロジェクトが進行中であるが、複数のプロジェクトに
似たアプローチが有効な場合がしばしばある。また、研究室OBの 機能診断科学細胞生理学
川野 淳教授の研究室と共同でプロジェクトを実施している。
- 消化器癌の分子標的療法・癌の化学予防: シクロオキシゲナーゼ(COX-1/COX-
2)と発癌の関連について検討している。特にCOX-2を強制発現させた細胞株を用い、癌
あるいは周囲組織において発現したCOX-2が腫瘍血管新生、癌浸潤におけるMMPの
活性化、カドヘリンの活性低下、腫瘍細胞の血管内皮に対する接着(→転移)などに強
い影響を与える事を見出してきた。さらにCOX-2以外にもアンギオテンシンがAktを介し
腫瘍の増殖・浸潤に大きな影響を与える事を示している。これらの系を抑制する薬剤に
は既に市販され安全性が確認されたものがあり、今後癌の化学予防薬としてその将来
性が期待できる。【主な論文の掲載先:Cell 1995, PNAS 1997, Cell 1998, Am J Physiol
1998, Lab Invest 1999, Am J Gastro 1999, J Exp Clin Cancer Res (review) 2001,
Gastroenterology (2002), Cancer Res (2002, 2003)など】 なお、Cell 1998論文は今まで
に600回以上引用され、Lab Invest 1999論文は該当領域の上位1%にランクされた。
(Thomson, Web of Science 'Essential Science Indicators'による)
- 消化管粘膜の増殖・分化の研究(組織再生とがん抑制に向けて): 消化管は複雑
な多細胞システムで、その構造や機能を理解するためにはサイトカインや増殖因子、細
胞間基質を介する細胞間相互作用を解明する必要がある。また神経幹細胞に発現する
musashi-1は消化管でも小腸上皮の幹細胞に発現する事が明らかにされたが、胃にお
いてもH. pylori感染などの病的条件で発現する事が判明している。【Lab Invest 1998,
PG LT Ess FA 1999, JPET 2000. Cancer Research 2002】 さらに同様のプロセスはお
そらくがんの発生進展にも大きく関わっているはずである。これらに対するH. pylori 感染
やH. bilis 感染、炎症性サイトカイン、活性酸素などの影響と作用機作について検討して
いる。 【PG LT Ess FA 1998. PG LT Ess FA 2000, Aliment Pharmacol Ther 2004など】
- 消化管微小循環・骨髄由来幹細胞の分化に関する研究: 喫各種消化管粘膜障害
には組織血流の低下と粘膜虚血・低酸素状態が、癌の進展や潰瘍の治癒には血管新
生に基づく微小循環が重要である。この血流障害にはエンドセリン、NOなどが血流調節
因子として関わっている。電子内視鏡IHb画像解析を開発し、現在このアルゴリズムに基
づいたIHb強調画像機能はオリンパス電子内視鏡260シリーズに搭載されている。臨床
面ではストレス、喫煙、非ステロイド系消炎鎮痛薬、飲酒などの影響について非侵襲リア
ルタイムに解析し、その機構を検討している。【Sivak's Gastroenterologic Endoscopy (教
科書:分担) 2000. J Gastroenterol Hepatol (review) 2000, J Gastroenterol Hepatol
2001.】 また骨髄や血中に存在する幹細胞は消化管の間質や上皮細胞にtransdif-
ferentiationを起こすがこれらのプロセスにも微小循環は重要な役割を有している。GFP
マウス(またはラット)を用い、成体体性幹細胞の組織内移行のプロセスを解析中であ
る。【Wound Repair and Regeneration 13:109-18, 2005. J Gastroenterol (in press)】
- 消化管粘膜免疫の調節機構: ヒトの消化管粘膜はテニスコート1.5枚分の面積がある
が、この中にある免疫担当細胞の挙動は全身免疫におけるものとはかなり異なる。その
役割を遺伝子操作マウスを用いた炎症性腸疾患モデルや粘膜ワクチンの作用、H.
pylori の影響などを通じて検討している。またCEACAM-1はCEA類似の構造を持つ膜蛋
白で細胞内に抑制系シグナルを伝達するITIMモチーフを有する。本分子を利用した炎
症性腸疾患の治療を実験的に試みている【Gastroenterolology 1998, J Exp Med 1999. 】
- 臨床研究: 逆流性食道炎やNUD,H. pylori 感染に伴う胃・十二指腸潰瘍、癌など消化
器疾患は患者のQOLに与える影響が大きく、致死的な場合も多い。関連施設と協同しな
がらこれらに対する臨床研究を行っている。【Am J Gastroenterol 1998. Endoscopy
1999, J Gastroenterol Hepatol 2004】 。また、H. pylori感染に伴う胃の発癌の疾患感受
性遺伝子には不明な点が多い。現在、京大消化器内科、自治医大消化器内科と共同で
胃癌患者に対する一塩基多型の解析を開始している。
肝臓グループ
肝臓領域では研究室OBの 未来医療開発分子制御治療学 林 紀夫教授の下、B型、C型肝
炎ウィルス(HBV, HCV)による慢性肝疾患の治療と克服、肝の免疫応答をテーマに研究を展
開している。特にウィルス肝炎や肝細胞癌の治療については関連病院との連携により多数症
例を蓄積し、予後との関係を解析しています。
- HCVが宿主細胞機能に与える影響についての解析(特に細胞周期、アポトーシ
ス、IL-6シグナリングに与える影響)
- HBVの複製に関与する宿主細胞ならびにHBV因子の解析
- in vivo遺伝子導入を用いたウイルス肝炎モデルの作製
- 樹状細胞や先天免疫の肝疾患における役割など
研究内容に興味をお持ちの方はe-mailにてお問い合わせ下さい。
mailto: gastro@medone.med.osaka-u.ac.jp
皆さんからのメールお待ちしております。

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