免疫疾患の解説一覧

帯状疱疹 Herpes zoster

概要

水痘帯状疱疹ウイルス(varicella zoster virusはalphaherpesvirusに属するDNAウイルス)は初感染時には水痘を引き起こすが、その後脊髄後根神経節に潜伏し、女性にやや多く(1.5倍)、50歳以降、免疫疾患、過労、免疫抑制剤投与などを契機にウイルスが再活性化され帯状疱疹を発症する。水痘に未罹患の乳幼児にはうつることがある。関節リウマチでは帯状疱疹は0.91/100人・年と報告され、リスク因子としてMTX内服、ステロイド使用、関節リウマチの高疾患活動性などが報告されている。日本人では特にJAK阻害剤投与下では帯状疱疹の発症が高くトファシチニブでは9.2/100人・年との市販後調査での報告がある。


症状

数日前から皮疹に先行して、皮膚表面より比較的体の奥から生じる前駆痛が生じることがあり、その後神経分節に沿って、浮腫性紅班が散在しはじめ、中心臍窩を有する水疱が現れ、膿疱、痂皮、上皮化と瘢痕化の順で経過していく。重症を示す徴候として、神経分節いっぱいに広がる病変、複数の神経分節に病変が及ぶ、水痘のような散在性の汎発疹、水疱が大きい、赤黒い紅班、強い疼痛、紅班を伴わない、などが指摘される。

Ramsay Hunt症候群:顔面神経膝神経節への波及で、耳介発赤、耳痛、難聴、顔面神経麻痺(顔面半側の表情筋の運動障害)、回転性めまいなどを伴う場合がある。麻痺が残ることがあり、抗ウイルス薬とともに早期に高用量ステロイドを投与する。耳鼻科・神経内科医と相談する。

Hutchinson徴候:鼻背部や鼻尖部に皮疹が及んでいると三叉神経第1枝の鼻毛様体神経分枝への波及が示唆され、結膜炎、角膜炎、虹彩毛様体炎などの眼病変を合併する事がある。眼科医と相談する。

治療

できるだけ早期にウイルス増殖を抑える抗ウイルス薬を投与することが大切である。ごく軽症を除いて外用薬のみでは不十分である。経口ではプロドラッグであるファムシクロビル(ファムビル®)やバラシクロビル(肝臓代謝でアシクロビルとなる。バルトレックス®)がある。汎発性、高齢者の三叉神経第一枝領域や免疫抑制の強い場合は点滴でアシクロビル(ゾビラックス®)を考慮するが、これらの抗ウイルス薬は腎排泄され腎機能に合わせた投与量の調節が必要となり皮膚科医への紹介には腎機能データを添えておく。抗ウイルス薬は尿細管で濃縮結晶化され腎障害をきたす事があり、脱水時やNSAIDs投与下では薬の投与量に注意する。抗ウイルス薬は通常7日間投与する。重症でも2週間投与で十分である。一日一回食後内服のアメナメビル(アメナリーフ®)は肝臓代謝である。抗ウイルス薬を薬局で受け取ったらすぐに第一回目の内服をすると良い。 関節リウマチに対して投与したトファシチニブなどは帯状疱疹出現時は中止するが、2週間後に再開は可能である。トファシチニブ再開後では帯状疱疹の再燃を繰り返すこともある。帯状疱疹後の神経障害性疼痛にプレガバリン(リリカ®)が有効であるが腎機能に応じた投与量調整が必要である 。

予防

乾燥弱毒生水痘ワクチンは水痘予防や50歳以上の者に対する帯状疱疹予防として適応があるが、プレドニゾロンや免疫抑制剤を使用している場合は禁忌である。生ワクチンではない乾燥組換え帯状疱疹ワクチン(シングリックス®)が承認されている。

帯状疱疹診療ガイドライン2025

帯状疱疹は50 歳代以降に増加、70歳代にピーク、80歳までに約30%の人で細胞性免疫が低下して発症するとされる。加齢以外に、悪性腫瘍、免疫抑制療法(ステロイド内服、免疫抑制剤、化学療法、臓器移植)を受けている、HIV感染症などでは発症リスクが高くなる。

診断

帯状疱疹は臨床像と経過で診断を確定できる場合が多く、その場合では臨床検査は必要ない。しかし、非典型的で臨床的に確定診断が出来ない場合には検査を推奨する(A)。

片側性の痛みのみでは帯状疱疹を診断することは難しく、発疹がない場合は筋肉痛、神経痛、偏頭痛、胆嚢炎、狭心症、心筋梗塞、骨関節や軟部組織の外傷や疲労などが鑑別に上がり、帯状疱疹とする根拠はないため慎重な経過観察を推奨する(C2)。

視診で診断に至らない場合は水疱病変からイムノクロマト法(デルマクイック® VZV)を勧める(A)。

Tzanck テスト(水疱底部の細胞ぬぐい液をスライドに塗抹、ギムザ染色して顕微鏡で確認)は診察室内でできる迅速診断法で、細胞変性効果によるウイルス性巨細胞を確認できればヘルペスウイルス感染症と診断できるが、HSVとVZV感染症の区別はできない(B)。

帯状疱疹の抗体価は症状出現から上昇までに一定期間を要するため、診断は可能だが臨床での決断に有用性が少ない(B

他に、PCR、リアルタイムPCR 法、LAMP法などの核酸増幅法を考慮されるが、保険適用は限定的(C1)。水疱病変から蛍光抗体法(B)、分離培養法(C1)などでの診断もある。

抗ウイルス薬の治療

核酸アナログであるアシクロビル(点滴、内服、外用)、ビダラビン(点滴、外用)、バラシクロビル(内服)、ファムシクロビル(内服)、ヘリカーゼ・プライマーゼ阻害薬であるアメナメビル(内服)がある。核酸アナログは腎代謝のためCrクリアランスに応じて投与間隔・投与量の調整必要、アメナメビルは腎機能による調整は不要。


帯状疱疹診療ガイドライン2025(図2)

内服核酸アナログ(主に尿中排泄で腎機能による投与間隔・投与量の調整が必要)
アシクロビル(ゾビラックス®) (800 mgを5回/日で7日間内服)
消化管吸収が悪く生物学的利用率が低いため1日5回の内服が必要。
バラシクロビル(バルトレックス®) (1,000 mgを3回/日で7日間)
アシクロビルの吸収性を改善したプロドラッグ。皮疹の改善度はアシクロビルと同等、疼痛改善度はバラシクロビルの方が優れている。
ファムシクロビル(ファムビル®) (500 mgを3回/日で7日間内服)
急性期疼痛に対する効果がバラシクロビルと同等。バラシクロビルより早期に疼痛が改善。
内服ヘリカーゼ・プライマーゼ阻害薬(主に糞便中排泄で腎機能に基づく調整は不要)
アメナメビル(アメナリーフ®) (400 mgを1回/日で7日間)
核酸アナログより早い段階でウイルスDNAの複製を阻害する。1日1回投与でコンプライアンスが良い。皮膚病変治癒、疼痛消失、ウイルス消失などの期間はバラシクロビルと同等。
点滴核酸アナログ(腎機能による投与間隔・投与量の調整が必要)
アシクロビル(ゾビラックス®) (5mg/kgを3回/日 8時間毎に1時間以上かけて7日間投与)
ビダラビン(アラセナ-A®) (5~10 mg/kgを1回/日 輸液500mL当たり2~4時間かけて5日間点滴)
ビダラビンはアシクロビルより副作用が出やすく効果が劣るためアシクロビル無効例に考慮。

急性期帯状疱疹に抗ウイルス薬の全身投与が強く推奨される(A)。抗ウイルス薬の全身投与は皮膚病変出現後なるべく早く開始する(一般に5日以内)。皮膚病変の新生停止や浮腫あるいは急性期疼痛の軽減といった臨床症状に対する効果発現には投与開始から数日を要する場合が多い。抗ウイルス薬は通常7日間投与だが、それ以上の投与での有効性を示す証拠はない。ただし免疫不全患者や重症例などでは臨床症状に応じて投与延長を考慮する。

妊婦,授乳婦への抗ウイルス薬は内服核酸アナログの内服症例蓄積から投与に大きな問題はなく安全に使用可能(A)。

入院を要しない症例ではバラシクロビル、ファムシクロビル、アメナメビルが推奨される。初期に治療開始すれば皮膚の急性期症状を抑制し疼痛を軽減かつ短期間に消失させる。

入院して点滴治療を考えるべき状態は、重症化や合併症発症の可能性が高いと考えられる高齢者、免疫不全状態、汎発疹、疼痛や皮膚病変が重症、腎機能低下、発熱、頭痛、嘔吐など肺炎や髄膜炎の併発が疑われる場合などである。

抗ウイルス外用薬は有効性の評価は乏しく、治療として推奨されない(C2)。

非ステロイド性抗炎症外用薬は無効を示す証拠があり、接触皮膚炎の危険性があり帯状疱疹の皮疹部には使用しない(D)。

疼痛対策

発症当初の急性期痛では、高齢者や抗ウイルス薬投与中ではアセトアミノフェンを考慮して良い(C1)、しかし疼痛に有効とする十分な証拠はなく肝障害に留意する。

急性期帯状疱疹で疼痛が強い場合は、NSAIDs内服を考慮してよい(C1)。しかし、胃腸・腎障害の原因となるため長期使用は勧められない。

急性期帯状疱疹の疼痛に対してリドカイン外用は一定効果があり治療選択肢の一つ(C1)。

Caチャネルα2δリガンドは神経障害性疼痛に対して鎮痛作用を示す。急性期帯状疱疹の疼痛は侵害受容性疼痛が主体であるが、一部神経障害性疼痛も含まれる。灼熱痛、しびれ、アロディニア、痛覚過敏などが急性期にみられた場合、できるだけ早期からCaチャネルα2δリガンドの使用を推奨する(C1)。

高度の疼痛を有する急性期帯状疱疹において強オピオイド鎮痛薬(モルヒネ,オキシコドン,フェンタニルなど)を、十分な経験と知識を有する医師の管理下で、抗ウイルス薬と併用を考慮してよい。また、急性期帯状疱疹の疼痛対策として、抗ウイルス薬とともに弱オピオイド鎮痛薬(コデイン、トラマドールなど)を考慮してよい(C1)。

急性期帯状疱疹の疼痛に対して抗ウイルス薬などの他の治療法が使用できない場合の代替治療として、十分な経験と知識を有する医師の管理下で竜胆瀉肝湯による単独治療を考慮してよい(C1)。

急性期帯状疱疹の疼痛対策として、補中益気湯、人参養栄湯、連翹湯、柴苓湯などの漢方薬を抗ウイルス薬との併用を選択肢の一つとして考慮してよい(C1)。

神経ブロックは一般的な薬物療法に抵抗する急性期帯状疱疹の疼痛に対して、患者の全身状態を考慮の上、施行を検討してもよい(C1)。

施行可能な状況であれば、一般的な急性期帯状疱疹の疼痛治療に加えて経皮的電気神経刺激などの理学療法を施行することを考慮してよい(C1)。

神経障害性疼痛の第一選択薬(有効性の証拠が高く、推奨される)
Caチャネルα2δリガンド:プレガバリン(リリカ®)、ミロガバリン(タリージェ®)、ガバペンチン(ガバペン®)
セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬:デュロキセチン(サインバルタ®)
三環系抗うつ薬:アミトリプチリン(トリプタノール®)、ノルトリプチリン(ノリトレン®)、イミプラミン(トフラニール®)
第二選択薬(有効性が示されている)
ワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液(ノイロトロピン®)、トラマドール(トラマール®、ワントラム®、ツートラム®)
第三選択薬(処方に精通した専門家に相談する)
オピオイド鎮痛薬:フェンタニル、モルヒネ、オキシコドンなどの強オピオイド、コデイン、トラマドールなどの弱オピオイド
薬物療法に抵抗する痛み
神経ブロックが考慮されることがあるが、精通した医師に相談する。
ステロイドの考慮

ステロイド全身投与は急性期疼痛の緩和目的で抗ウイルス薬全身投与とともに考慮してよいが、副作用に注意(例、40mg 7日、30mg 4日、20mg 4日、10mg 4日、5mg 3日間)(C1)。

皮疹部へのステロイド局所投与(皮下,皮内)は急性期疼痛を緩和する目的や皮疹の改善のために抗ウイルス薬の全身投与とともに考慮してよい(C1)。

ステロイド点眼・外用は急性期帯状疱疹の疼痛の緩和や皮疹の改善を目的とした投与は通常推奨されないが(C2)、眼部帯状疱疹の結膜炎、角膜炎、ぶどう膜炎に対する抗炎症目的ではステロイド点眼が一般的に行われる。

Hunt 症候群の治療の基本は経口あるいは点滴抗ウイルス薬の7日間投与。ステロイドの有効性に関して明確な証拠はないが、抗炎症作用のメリットが免疫抑制作用のデメリットより大きく一般に使用さる。プレドニゾロン1mg/kg/日で開始し10~14 日程度で漸減投与を行う。

患者隔離の必要性

帯状疱疹の小水疱内には高濃度の VZV 粒子が含まれ、痂皮化するまで感染性がある。帯状疱疹患者が感受性のある家族に水痘を発症させるリスクは8%という報告がある。

免疫正常者の限局性帯状疱疹では患部が確実に覆われていれば個室隔離は不要だが、免疫不全患者との同室入院は避ける。

免疫抑制者の限局性帯状疱疹では汎発性帯状疱疹が完全に否定されるまで空気感染対策や接触感染対策を行い、汎発性帯状疱疹の否定後は痂皮化するまで皮疹部を完全に覆う。

原発部位以外に20個以上の散布疹を認める汎発性帯状疱疹は、痂皮化するまで空気感染対策および接触感染対策を行う。

予防

帯状疱疹ワクチンには生ワクチンとサブユニットワクチン(シングリックス®)の2種類あるが、両者とも大規模臨床試験での予防効果に関し強い証拠があり予防に強く推奨する(A)。生ワクチンには接種不適当者がいること、サブユニットワクチンは副反応の発現率が高いことに注意が必要。

血清VZV抗体価は帯状疱疹の発症や重症化と相関せず、発症を予見する方法としてのVZV抗体価測定は推奨しない(C2)。

水痘抗原皮内反応はVZVに対する細胞性免疫能を示す良い指標で、帯状疱疹の発症リスク、重症化、帯状疱疹後神経痛リスクともよく相関する(C2)。保険適用はない。

造血幹細胞移植患者に対する抗ウイルス薬の予防内服は投与中の発症抑制効果、発症者の症状の軽減効果、また少なくとも1年間の発症予防効果も見られるため考慮してよい(C1)。ただし内服中断後に効果は減弱するため長期予防効果はない。保険適用はない。

2025/Dec, 2018/July