ケトン食療法とは

近年、糖質を控え、脂肪(特に中鎖脂肪酸)を増やし、肝臓からのケトン体をみちびく食事であるケトン食(低炭水化物高脂肪食)によって、がんの成長が妨げられる効果が注目されています。

ケトン食による病気に対しての治療応用は、実は長い歴史があります。古くは、ヒポクラテスによって、てんかんに対する絶食の効果が報告されました。

それをもとに、1921年アメリ力のWilderによって絶食より負担の少ない食事としてケトン食が考えられ、てんかん患者において劇的な発作軽減効果が報告されました。

抗てんかん薬の開発により、一時廃れますが、1990年代に、多剤で無効だった難治てんかんの少年に対するケトン食の臨床効果が注目され、アメリカでは再評価されています。

ケトン食の臨床・研究について

日本においても、小児科の先生を中心に、難治性てんかんの患者さんに対してケトン食の指導が行なわれており、ケトン食の有効性と安全性が確認されています。

近年の研究では、外科治療、放射線治療や抗がん剤治療などでも治療困難な脳腫瘍であるグリオブラストーマにおいて、ケトン食の継続によって、がんの増殖が抑えられることが、報告されています 1)。

ドイツのグループからは、ケトン食によって、がん末期の患者さんに対して、精神の安定や不眠、食欲不振などの症状が和らぎ、生活の質(QOL)が向上する効果がみられたことが報告されています 2)。

ケトン食が有効な根拠のーつとしては、イヌイット民族における疫学調査の結果が挙げられます。

イヌイット民族は、伝統的に、魚やあざらしを摂るケトン食類似の(低炭水化物高脂肪食)の食習慣を行っていました。その間は、がんの発生率は極めて低いことが知られていたのですが、1910年以降欧米型の食文化が入ってくるようになり、1950年代からは大腸がん・肺がん・乳がん・前立腺がんが増加していたことが報告されています 3)。

がんに対するケトン食療法の臨床研究について

以上のことから、ケトン食の癌に対する抑制効果が期待され、ドイツやアメリカを中心に、肺癌、膵臓癌、前立腺癌などさまざまな癌患者さんに対してのケトン食の有効性を調べる取り組みが始まりました。

日本人を対象にした研究は行われていなかったことから、大阪大学先進融合医学共同研究講座では、2012年日本国内において先駆けて、がん患者に対するケトン食の有用性を検討するために、大阪大学ゲノム審査委員会に申請を行い、2013年承認後に臨床研究を開始しました。

その結果は、驚くような結果であり、現在、その臨床効果が注目を集めている状況です。その結果を以下に示します。

文献

  1. Zuccoli G et al. Metabolic management of glioblastoma multiforme using standard therapy together with a restricted ketogenic diet: Case Report. Nutr Metab (Lond). 2010 Apr 22;7:33.
  2. Schmidt M et al. Effects of a ketogenic diet on the quality of life in 16 patients with advanced cancer: A pilot trial.Nutr Metab (Lond). 2011 Jul 27;8(1):54.
  3. Friborg JT , Melbye M. Cancer patterns in Inuit populations. Lancet Oncol. 2008 Sep;9(9):892-900.)

がんケトン食療法の研究・実績

大阪大学:「がんケトン食治療コンソーシアム」研究成果。進行性がん患者で新しいケトン食療法による有望な結果

大阪大学、明治ホールディングス、日清オイリオによる「がんケトン食治療コンソーシアム(代表研究者:萩原圭祐)」は、進行がん患者を対象に中鎖脂肪酸油(MCT)を含むフォーミュラ食品を用いた新しいケトン食療法の臨床研究を実施しました。

臨床病期4期の進行がん患者を対象に、炭水化物を抑えた高脂肪食による代謝改善を目的とし、55人のうち3か月間継続できた37人を解析しました。

結果、食事関連の重篤な副作用は認められず、PET-CT検査で5人が部分奏効、1年後には3人が完全奏効、7人が部分奏効を示しました。

生存期間の中央値は32.2か月、3年生存率は44.5%と良好でした。また、ABCスコアで生存率に有意差が確認されました。

これにより、大阪大学が開発したケトン食療法は、多様ながん種に対する安全で有望な支持療法となる可能性が示唆されました。

(国際科学誌『Nutrients』2020年5月19日に掲載)

■ 「癌ケトン食治療コンソーシアム」研究成果 進行性がん患者で新しいケトン食療法による有望な結果

※臨床病期とは、がんの進行度合いを示す指標であり、I〜Ⅳ期に分類されます。

一般に、Ⅰ期、Ⅱ期の患者は手術可能であり、長期延命が期待されます。遠隔転移をともなうステージⅣの5年生存率は、公益財団法人 がん研究振興財団「がんの統計11」によれば、全がんで大よそ16%と報告されています。

大阪大学:進行がん患者の生存期間を劇的に改善

大阪大学大学院医学系研究科の江頭隆一郎特任助教、萩原圭祐特任教授らの研究グループは、がん患者向けに開発したケトン食療法の長期効果を検証し、進行がん患者の生存期間を劇的に改善することを明らかにしました。

臨床病期Ⅳ期のがん患者53名を対象に、ケトン食継続12か月以上群(21名)と12か月未満群(32名)を比較したところ、生存期間中央値はそれぞれ55.1か月と12か月で、長期継続群の生存率が有意に高い結果となりました(p<0.001)。

背景因子を調整した解析でも同様の結果が得られ、ケトン食の長期継続が進行がん患者の予後改善に寄与することが確認されました。

ケトン食は高脂肪・低炭水化物の食事で、代謝改善や抗炎症作用を通じて治療を支える支持療法とされ、専門的な栄養管理のもと安全に実施可能です。

本成果はがん患者に新たな希望をもたらす研究として注目されています。

(国際科学誌『Nutrients』2023年5月17日に掲載)

■ 進行がん患者の生存期間を劇的に改善 - ResOU


ケトン食療法の実践に関心をお持ちの方へ

萩原圭祐先生は、2025年3月末日で大阪大学医学部附属病院を退職されました。
今後、ケトン食療法にご興味がある方は、以下の医療機関にて専門外来が設けられております。

下記の外来ページをご参照のうえ、ご相談ください。

■ 北千里「前田クリニック」:萩原圭祐先生による専門外来のご案内


日本ケトン食療法学会について

このたび、ケトン食療法に関する基礎・臨床研究の発展および学術的情報共有を目的として、日本ケトン食療法学会が設立されました。

学会の設立趣旨や活動内容の詳細については、公式サイトをご覧ください。

■ 日本ケトン食療法学会 公式サイト