腹膜透析を受けられる患者さんへ

腹膜透析とはどのようなものですか?

腎臓の働きが低下して、薬物療法や食事療法などの保存的療法では治療が困難な場合に行う治療法には、一般に血液透析・腹膜透析・腎臓移植の3つの方法があります。腹膜透析とは自分の体の中にある腹膜を使う透析方法です。

腹膜はおなかの内面にあって、胃や腸などの臓器を覆っている薄い膜で、広げるとたたみ一畳ほどの面積があり、表面には毛細血管が網目状に広がっています。おなかの中に管(カテーテル)を通し、その管から透析液を入れると、血液中の老廃物や不要な水分、電解質などが腹膜の毛細血管を介して透析液の中ににじみ出てきます。この液を体外に排出し、新しい透析液を入れることを一日数回繰り返すことにより、血液を浄化します。透析バックさえ準備すれば、いつでも透析可能ですし、血圧や水分の変動が少なく尿量が維持されやすいという利点があります。しかし、腹膜透析で除去できる老廃物や水分の量には限界があるため、尿が出なくなると、血液透析を併用することや、完全に血液透析に移行することが必要となります(だいたい5年くらいで血液透析が必要となります)。また、長期に腹膜透析を行うと、腹膜が劣化してきます。この時点で腹膜透析を中止すればよいのですが、さらに続けて行うと被嚢性腹膜硬化症という生命にかかわる重篤な合併症を発症する(1%)ことがあります。

腹膜透析の開始基準は?

末期腎不全・急性腎障害により腎機能が高度(10%以下)に低下し、薬剤や食事療法、水分制限などの保存的な治療では対処が出来ない場合、腹膜透析または血液透析により低下した腎機能を代替します。

腹膜透析を避けた方がよい場合は?

以下の場合には注意が必要です。

(1) 腹部手術の既往

手術内容によっては腹膜の癒着・硬化が生じることがあり、カテーテルの挿入が困難なことがあります。

(2) 人工肛門

人工肛門とカテーテル出口部が近いとき、出口部の清潔を保てないことがあります。

(3) 手指の運動障害・視力障害

カテーテルの接続操作などの障害となることがありますが、補助具や機械の使用で対処可能な場合もあります。

(4) ヘルニア・腰痛

おなかの中に液を貯めることにより増悪することがあります。

腹膜透析はどのようにおこなわれるのでしょうか?

手術について

腹膜透析を行うためには、透析液を出し入れする専用カテーテルをお腹に埋め込む手術が必要となります。専用カテーテルは、埋め込み手術後、創が癒着するまで数週間待ってから使用する方がよいので、前もってカテーテル全体を体内に埋め込んでおき、腹膜透析開始時にカテーテルの先端部分を体外に出す方法(SMAP法)をとることが多いです。一度埋め込まれたカテーテルは、トラブルがなければ半永久的に使用します。

腹膜透析の実際

腹膜透析には、透析液を1日4回ほど自分で交換するCAPD(Continuous Ambulatory Peritoneal Dialysis:連続携行式腹膜透析)と、睡眠中に自動的に透析液を交換してくれる専用装置を用いるAPD(Automated Peritoneal Dialysis:自動腹膜透析)があります。どちらの方法も、カテーテルと透析液バックを接続したり離したりするセッティング作業を行うのは患者さん自身です。この際に不潔操作を行なうと腹膜炎を起こす可能性があるので、入院中にしっかり練習して、手技を確実に習得することが必要です。

退院後の生活

腹膜透析手技が安定し退院した後は、自宅へ透析液バックを配送してもらい、ご自身で透析を行うことになります。

ゴミの分別 腹膜透析で出る排液はトイレに流します。袋はゴミとして出しますが、自治体によって扱いが違うので注意が必要です。
入浴 退院後しばらくはシャワー浴のみとなります。カテーテルの皮膚出口部を石鹸とシャワーでよく洗い清潔を保つようにします。皮膚出口部が安定すれば、消毒剤を溶かした浴槽にそのままつかることができるようになります。
外来通院 腹膜透析では月1〜2回の当院腹膜透析外来通院が必須です。このとき、透析が適切であるかを主治医が検討し、透析スケジュールの変更をおこないます。
旅行 腹膜透析が安定したら、国内旅行・海外旅行(国によって制限あり)ともにあらかじめ液の手配などを行えば可能です。主治医に御相談下さい。

透析療法は患者様にとって必要な治療法ですが、延命のみを目的とした治療法ではありません。あくまでも、社会復帰を目指して行われるものです。透析療法導入後の患者様のご自身の努力とご家族の協力のもと透析を維持していく必要があります。

腹膜透析の合併症や危険性はなんですか?

ヘルニア・腰痛

1回に1500〜2000mlの透析液をお腹にいれるため、お腹の膨満感や腰痛、食事量の減少、ヘルニアを生じることがあります。

感染症

腹膜炎やカテーテル周囲、カテーテル出口部の感染の危険があります。これは、バッグ交換時の不潔操作や、カテーテル出口部の洗浄不良がおもな原因です。カテーテルの接続時には清潔操作に十分注意してください。

カテーテルの位置異常と閉塞

お腹の中のカテーテルの位置が動いてしまうことにより腹痛や排液不良が起こることがあります。またカテーテルが詰まってしまうこともあります。このような要因のため、せっかくカテーテルをいれていただいても、どうしても腹膜透析がうまくいかず、血液透析に移行していただく場合がありうることを御理解ください。

限外濾過不全

腹膜透析の継続により、腹膜による除水能や老廃物の除去能が低下し、腹膜透析だけでは透析量が不十分になることがあります。年一回の腹膜機能検査にて腹膜機能および透析量を検討し、必要時には速やかな血液透析への移行を了承していただけますようお願いいたします。

被嚢性腹膜硬化症

腹膜透析中、または腹膜透析中止後に被嚢性腹膜硬化症という生命にかかわる重篤な合併症を発症する患者さんが1%おられます。予防のためにも、年一回の腹膜機能検査をお願いするとともに、必要時には速やかな血液透析への移行を了承していただけますようお願いいたします。

その他

長年の腹膜透析患者さんでは、

(1) 骨の障害

(2) 透析アミロイドーシス

(3) 動脈硬化

(4) 心不全

(5) 感染症

(6) 悪性腫瘍

(7) かゆみ

が発生する率が一般より高いとされています。残念ながら、腹膜透析でも血液透析でも腎臓の機能を完全に代替することはできません。透析を長く続けるほど合併症としてさまざまな問題点が生じてきます。合併症の予防のためには、十分な透析による老廃物の除去、日々の食事や飲水・内服への注意、出口部の観察などのケアが重要です。

 

何かご不明な点等があれば、担当医にお尋ねください。