近位尿細管におけるRubiconノックアウトマウスはメタボリックシンドロームを呈する

Autophagy. 2020 Jan 16 PMID: 31944172

Metabolic effects of RUBCN/Rubicon deficiency in kidney proximal tubular epithelial cells.

Matsuda J, Takahashi A, Takabatake Y, Sakai S, Minami S, Yamamoto T, Fujimura R, Namba-Hamano T, Yonishi H, Nakamura J, Kimura T, Kaimori JY, Matsui I, Takahashi M, Nakao M, Izumi Y, Bamba T, Matsusaka T, Niimura F, Yanagita M, Yoshimori T, Isaka Y.

 

オートファジーは自己の細胞質成分(タンパク、脂質、グリコーゲン、細胞内小器官など)をごみ処理工場であるリソソームで分解するシステムです。腎尿細管のオートファジー活性(強さ)は他臓器に比較しても非常に強く、細胞内に老廃物が溜まりすぎないように重要な役割を担います。また虚血などのストレスが腎臓に加わった時も活性化され、腎臓を守ります。このためオートファジーを活性化させる薬剤は腎疾患の治療薬として有望と考えられます。私たちは今回の研究でRubiconという分子に着目しました。Rubiconはオートファジーを普段から抑制している分子で、その機能を抑えるとオートファジーが活性化されるはずです。そこで腎尿細管でだけRubiconが存在しないマウス(以後KOマウスと呼びます)を作成し、オートファジー亢進マウスとして解析しました。

KOマウスでは確かにオートファジーが亢進していましたが、虚血などのストレスを与えても、通常のマウスと比較して特に腎臓が守られるわけではないということがわかりました。がっかりした私たちはそれでも観察を続けました。そうすると意外なことにKOマウスは年を重ねるごとに肥満を呈することがわかりました(図1)。12ヶ月齢では脂肪肝に加えて血漿コレステロール値の上昇、内臓・皮下脂肪重量の増加および耐糖能異常を認めました。

図1. KOマウス(TSKO)の外観と体重の推移
尿細管細胞特異的Rubiconノックアウトマウスは4カ月齢から肥満を呈する。

私たちは次に腎臓でのオートファジーの活性化がなぜメタボリックシンドロームの原因になるかを検証しました。その結果、KOマウスの尿細管細胞では、細胞膜や細胞内小器官の膜成分がオートファジーによりどんどん分解され、大量の脂肪酸が産生されていることが判明しました。この脂肪酸は、エネルギー(ATP)に変換すべく積極的にミトコンドリアに運ばれ分解されていましたが、余った脂肪酸は尿細管とは反対側の細胞膜からあふれ出し、体内に回収され、いわば過剰に脂肪を摂取した状態に近くなることが判明しました(図2)。本研究の結果を図3にまとめます。

図2. 野生型あるいはKOマウス由来の培養尿細管細胞(PTEC)に赤い色素をつけた脂肪酸(RedC12)を取り込ませ、肝細胞と一緒に培養すると、野生型細胞と共培養した肝細胞では赤の色素がほとんど見られないのに対し、KOマウス由来の尿細管細胞と共培養した肝細胞には多数の赤の色素を認め、しかも脂肪滴(緑色)に存在していた。

図3. KOマウスの尿細管では、オートファジーが活性化された結果大量の脂肪酸が産生され、細胞外にあふれ出す。

本研究で得られた結果は「オートファジーの活性化」=良いこととする考え方が単純すぎることを意味しています。おそらく近位尿細管のRubiconはオートファジーが暴走しないようなブレーキの役割を担っているのでしょう。これとは別にRubiconの亢進はオートファジーを抑制して老化に加担していること(本学の吉森教授の研究で、わたしたちも参加しています)、高リン血症など一部の疾患ではKOマウスは疾患ストレスを緩和すること(論文投稿準備中)などが判明しており、今後もRubiconの研究は発展しそうです。