第2回阪大腎病理カンファレンス 基礎レクチャー「膜性腎症」

腎生検を実施する目的は、(1)鑑別診断(2)予後予測です。そのためには、腎組織の三大構成要素である(1)糸球体(2)尿細管、間質(3)血管の正常組織像を理解しておく必要性があります。今回は、糸球体に注目しましょう。

正常の腎組織 PAMX100

糸球体を構成する四大要素

糸球体の構造を理解するためには、次の順番で位置関係を把握するとわかりやすいのではないでしょうか。メサンギウム細胞とメサンギウム基質は、毛細血管の構造を維持しており、基底膜の内部に存在している事に注意して下さい。

糸球体を構成する四大要素

糸球体腎炎は、これらの四大要素のどこに病変があるかで、大別する事ができます。逆に言えば、どの要素に病変が存在するかを、HE、PAS、PAM染色等を用いて確認すれば、基本的な糸球体腎炎は診断する事ができるというわけです。

今回は、糸球体の基本構造を把握する上で要となる基底膜が主な病変部位である膜性腎症について解説します。

膜性腎症の病理組織像

膜性腎症は、上皮下の免疫複合体の沈着に伴って、基底膜が肥厚してくる糸球体疾患です。特徴的な病理組織所見を電顕所見、蛍光抗体所見、光顕所見の順に確認していきましょう。

膜性腎症の電顕所見

電顕写真では、上皮下にelectron dense deposit (EDD)が認められます。

電顕所見に基づいたEhrenreich-Churgの病期分類が有名です。膜性腎症の病理組織像の進行を理解する上で、大変役に立ちます。

膜性腎症の蛍光抗体所見

蛍光抗体染色では、電顕写真で確認されるEDDに対応する顆粒が、主にIgGにおいて係蹄壁沿いに認められます。

膜性腎症の光顕所見

光顕では、スパイクや点刻像を確認しましょう。糸球体毛細血管の横断面であれば、スパイクが見えますし、接線方向であれば点刻像が見えます。

スパイクや点刻像等の基底膜の病変を確認するのに最も適しているのが、PAM染色です。ただし、Ehrenreich-Churg分類のI期では、基底膜の変化がないので、PAM染色では病変が確認できないので、注意が必要です。

PAS染色やHE染色では、PAM染色ほど基底膜の微細構造を認識する事ができません。

(Elastica-)Masson染色では、免疫複合体が赤色顆粒状に見えます。

膜性腎症の鑑別診断

病理組織学的に膜性腎症と診断した後に問題になってくるのが、一次性か二次性かという事です。二次性膜性腎症の原疾患としては、自己免疫性疾患、薬剤、感染症、悪性腫瘍等が挙げられます。二次性膜性腎症を疑うポイントは、下記の通りです。

Fervenza FC et al. Cli J Am Soc Nephrol 2008; 3: 905-919

膜性腎症の予後予測

膜性腎症の腎予後を予測する病理組織学所見に関する報告は、複数存在しますが、未だ十分なエビデンスが無く、未だ確立されていないのが現状です。Fervenza等は、Clin J Am Soc Nephrol 2008; 3: 905-919において、

“The current evidence dose not support that pathology play much of a role other than diagnosis: it is not helpful in establishing prognosis or predicting response to immunosuppresive therapy.”

とコメントしています。現時点では、少なくとも尿蛋白に勝る予後予測因子ではなく、今後さらなる検討が期待されているといったところでしょうか。