第5回阪大腎病理カンファレンス基礎レクチャー「IgA腎症の見方」

糸球体の構造を理解するためには、次の順番で位置関係を把握するとわかりやすいです。 メサンギウム細胞とメサンギウム基質は、毛細血管の構造を維持しており、基底膜の内部に存在している事に注意して下さい。

糸球体を構成する四大要素

糸球体腎炎は、これらの四大要素のどこに病変があるかで、大別する事ができます。 逆に言えば、どの要素に病変が存在するかを、HE、PAS、PAM染色等を用いて確認すれば、基本的な糸球体腎炎は診断する事ができます。

今回は、メサンギウム領域の病変を基本的な特徴としながらも、管内病変や管外病変等の様々な病理組織像を呈するIgA腎症の病理組織の見方を解説します。

また、2009年9月にInternational IgA Nephropathy NetwrokRenal Pathology Societyが発表したIgA腎症の国際分類(Oxford分類)と現在改訂作業が進められている進行性腎疾患研究班IgA腎症分科会の新予後分類も紹介します。

IgA腎症の基本的な病理組織像

IgA腎症は、メサンギウム領域へのIgAの沈着を伴うメサンギウム細胞の増殖メサンギウム基質の拡大を基本的な特徴とする糸球体腎炎です。

傍メサンギウム領域(paramesagiual area)というメサンギウム領域の外周部に免疫複合体(immune complex: IC)が沈着する事によって発症するとされていますが、その詳細なメカニズムは未だ不明です。

 

 

IgA腎症の電顕像

傍メサンギウム領域にElectron Dense Deposit (EDD) が認められます。

IgA腎症の蛍光抗体像

電顕写真で傍メサンギウム領域に認められたElectron Dense Deposit (EDD) に一致して、IgAの顆粒状の沈着がメサンギウム領域に観察されます。

しばしばC3も、IgAと同様のパターンを示します。IgGやC4等も同様のパターンを示す事もありますが、あくまでもIgAの陽性度が最も強い事が特徴です。

 

IgA腎症の光顕像

まずは、IgA腎症の糸球体が、HE、PAS、PAMでどのように見えるかを確認していきます。

 

PAS染色で、正常糸球体(左図)とIgA腎症の糸球体(右図)を比較するとと、メサンギウム領域が拡大している事がよくわかります。右図のIgA腎症の糸球体をHEとPAMではどのように見えるでしょうか?

 

HE(左図)では、細胞核は明瞭ですが、基底膜や細胞外基質が見にくいので、それぞれの細胞核がどの細胞(メサンギウム細胞、上皮細胞、内皮細胞・・・)のものかかがわかりにくいのです。PAM(右図)では、基底膜と細胞外基質が明瞭なので、どの細胞が増殖しているかがよくわかります。

IgA腎症ではメサンギウム領域の病変以外にも、管外増殖病変、管内増殖病変等の様々な病変を伴います。それらの病変の詳しい定義に関しては、"The Oxford classification of IgA nephropathy: Rationale, clinicopathological correlations, and classification. Kidney Int 2009; 76: 546-556"を御参照下さい。

IgA腎症の病理組織学的予後予測因子

上記の病理組織学的特徴から、IgA腎症の診断そのものは比較的容易です。したがって、臨床上問題になる事は、「病理組織学的所見から腎予後を予測する事ができるのか?」という事です。

これまで多くの研究者が独自に腎予後を予測する組織学的重症度分類を作成してきましたが、最近まで国際的なコンセンサスは得られるものは存在しませんでした。そこで、国際IgA腎症ネットワークが中心となって、4大陸8カ国から後方視的に収集されたIgA腎症患者265例を対象とした後方視的縦断的観察研究(後方視的コホート研究ではありません)が行われ、その結果が、2009年9月のKidney Internatinalに発表されました。本分類は今後IgA腎症の病理組織学分類の世界標準となっていくと考えられます。

Oxford分類の研究対象となった各国の症例数

大陸   成人
(≧18歳)
小児
(<17歳)
アジア 62例
(23.4%)
中国 28例 4例
日本 20例 10例
ヨーロッパ 94例
(35.5%)
イタリア 42例 20例
フランス 23例 1例
イギリス 8例 0例
北米 104例
(40.0%)
アメリカ 50例 24例
カナダ 32例 0例
南米 3例
(1.1%)
チリ 3例 0例

D. C. Catrran et al. Kidney Int 2009; 76(5): 534-545

一方、本邦では、進行性腎疾患研究班IgA腎症分科会による予後判定基準の改訂作業が進められており、近々発表される予定です。この新予後判定基準とOxford分類の違いを明らかにする事によって、日本におけるIgA腎症の組織学的予後因子の今後の課題について考えます。

QUIZ:Crが1.5倍化した症例はどれでしょうか?

大阪大学医学部附属病院、大阪府立急性期・総合医療センター、大阪労災病院の3施設において、約1000例のIgA腎症患者を対象にした後方視的観察研究(STudy of Outocmes and Practice pattern of IgA Nephropathy: STOP-IgAN)が進められています。

今回は、大阪大学医学部附属病院でIgA腎症と診断された症例の中から、Nested Case-Control study designを用いて、最終的にCrが1.5倍化した症例(case)年齢と性別をマッチングさせた1.5倍化しなかった症例(control)をランダムに選択し、Webブラウザで閲覧可能なバーチャルスライド(全9症例)を作成しました。どの症例が1.5倍化した症例でしょうか?解答は、1月20日(水)第5回阪大腎病理カンファレンスで発表しますので、お楽しみに。

参考文献

Oxfrod分類1 組織学的腎予後予測因子の同定
The Oxford classification of IgA nephropathy: Pathology definitions, correlations, and reproducibility. D. C. Catrran et al. Kidney Int 2009; 76(5): 534-545

Oxford分類2 観察者間の一致率が高い病理組織学病変の同定
The Oxford classification of IgA nephropathy: Rationale, clinicopathological correlations, and classification. I. S. Roberts et al. Kidney Int 2009; 76(5): 546-556

Commentary
A novel classification for IgA nephropathy. Yamamoto R. et al. Kindey Int 2009; 76(5): 477-480