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領域の概要

領域課題名

上皮管腔組織の形成・維持と破綻における極性シグナル制御の分子基盤の確立
Regulation of Polarity Signaling during Morphogenesis, Remodeling, and Breakdown of Epithelial Tubule Structure
略称名:上皮管腔組織形成

目的

生体は、上皮組織、支持組織(骨、軟骨、血管組織を含む)、筋組織、神経組織から成り立っています。上皮組織の中でも、上皮管腔組織は生体の器官の必須構造です(図1)。組織幹細胞が上皮細胞へ分化し、上皮細胞から上皮シートや上皮細胞塊を経て上皮管腔組織は形成され、その構造が維持されると考えられています。一方、上皮管腔組織の形成・維持過程が破綻すると、器官の無形成や低形成等の奇形や癌を含む種々の疾患に至ることが明らかになっています。しかし、細胞機能の分子レベルでの理解が進む一方で、細胞集団からなる組織・器官の形成と維持の分子・細胞レベルでの理解は立ち遅れています。細胞と組織・器官との間に横たわる未知の高次構造構築の基盤解明は生体と疾患の理解に必須であり、そのためには、新たな統合的な研究戦略が必要です。

図1.生体を構成する上皮管腔組織

上皮管腔構造は、物質を輸送するために、物質が内腔面から管腔外に漏れないような壁で構築されることが基本的なデザインです(図2)。細胞内外のシグナルが細胞を時空間的に制御することにより、極性化した上皮細胞が互いに連結し、内腔側と支持組織側を区画する共通の形状をとります。上皮管腔組織の形態は、器官ごとに壁の厚さ(細胞の形と層数)、直径や長さ、分岐の数や様式が多様ですが、私共は上皮管腔組織を極性化した細胞集団として捉えることができると考えています。

図2.上皮管腔構造と極性

細胞の極性化は、種々の液性因子や接着によるシグナルが様々なタンパク質等を細胞の必要な領域に輸送・配置・再構築することで決定され、上皮細胞が脱極性化することは種々の奇形や癌等の疾患に関わります。本領域では、上皮管腔組織の形成・維持と破綻の分子機構を解明するために、様々な異なる分野の研究者が有機的連携を図ることによって、細胞と組織・器官の間に存在する未解決の問題、すなわち「細胞が極性化・集団化してどのように高次の形態を有する上皮管腔組織を形成・維持するのか」「上皮管腔組織が破綻すると、どのようにして疾患に至るのか」を明らかにすることを目指します(図3)。

図3.領域推進のための基本的研究戦略概念図

何を明らかにするか?

本領域では、液性因子と接着によるシグナルが細胞極性を制御するという視点で研究を行います。上皮管腔組織形成には、非極性化上皮細胞集団が間質へ肥厚し伸長と分岐を繰り返した後、極性化して管腔構造を構築する形式(例えば、乳腺や唾液腺、膵臓の発生時等)と、極性化上皮細胞が内腔を有したまま伸長し分岐する形式(例えば、気管支や尿管、総胆管の発生時等)が存在すると考えられます(図4)。この二種類の上皮管腔組織形成における極性化とその維持の共通の分子基盤を解明すると共に、相違を明らかにします。

図4.異なる2つの上皮管腔形成パターン

個体における組織構築の過程では、形成と維持が巧妙に制御され、その制御機構が破綻すれば正常組織は構築・維持できず、組織の異常をもたらし疾患に至ると考えられます。したがいまして、上皮管腔組織の「形成・維持」の機構の理解は、「破綻」の機構の理解に通じ、逆に「破綻」の機構の理解が「形成・維持」の機構の理解に通じると考えられますので、両者の視点からの解析を平行して進めることが上皮管腔組織形成の分子基盤を包括的に理解するために必要不可欠です。このような理由から、研究項目A01「上皮管腔組織の形成・維持」とA02「上皮管腔組織の破綻」を設定し、上述した二種類の上皮管腔組織形成のパターンを念頭に置きながら、研究を展開します。

研究項目A01「上皮管腔組織の形成・維持」

この研究項目では、組織幹細胞の維持と組織前駆細胞からの上皮細胞への分化と、上皮細胞から上皮管腔組織が形成・維持される過程を解明します。

A01「上皮管腔組織の形成・維持」

研究項目A02「上皮管腔組織の破綻」

この研究項目では、上皮管腔組織の発生期における形成不全または、形成後の維持の破綻による種々の奇形や癌等の疾患発症の機構を解明します。また、研究項目A01との連携により、上皮間葉転換(EMT)が分岐形成等の正常上皮管腔組織形成に関与する分子機構を明らかにします。

A02「上皮管腔組織の破綻」

本領域の発展がどのように学術の進展につながるのか?

個別の細胞機能制御の分子機構の詳細が明らかになる中、細胞から如何にして組織・器官が作られるかを解明することは大きな課題です。管腔構造をとる中枢神経系や血管系の構築を理解するための研究は精力的に進められていますが、様々な器官との関連が深い上皮管腔組織に焦点をあてた研究は萌芽期にあります。

したがいまして、本新学術領域の発展は上皮組織と支持組織や筋組織、神経組織との相互作用の理解や別種の管腔組織と捉えることのできる血管系や中枢神経系の形成の理解へも貢献すると期待しています。また、次世代の再生医療は、組織の高次構造の理解の上に行われることが望まれます。さらに、本研究成果を通じて奇形や癌の浸潤・転移に関する知見も集積します。

このような研究を通して本領域を推進することにより、私達は、将来管腔生物学という新たな学問領域を打ち立てていきたいと考えています。