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研究成果概要

計画研究07

上皮管腔組織の破綻と上皮間葉転換
研究代表者: 佐邊 壽孝
研究分担者: 小根山 千歳
研究成果概要

1)腎明細胞癌の浸潤・転移性並びに薬剤耐性の分子基盤の解明
腎明細胞癌は腎癌の70〜80%を占め、抗癌剤や放射線療法に対して抵抗性が高く、その30〜40%に転移性再発をみる極めて悪性度の高い癌です。この癌は上皮組織に由来しますが、転移性の高くなったものの多くは上皮様の形質を失い、浸潤能を獲得した間充織様形質に変化しています。今回、脂質メディエーターであるリゾフォスファチジン酸(LPA)が腎明細胞癌の主な悪性度促進因子であることを詳細な分子機構と共に明らかにしました。LPAは低分子量G蛋白質Rhoを活性化することが知られており、これまではRho活性を介して癌悪性度に関与すると考えられてきました。今回、腎明細胞癌においてLPAはArf6と呼ばれる別の低分子量G蛋白質を活性化し、浸潤転移並びに、薬剤耐性を促進すること、その際、Arf6が作動させる細胞内シグナル経路は、非転移性癌には発現しない間充織特異的蛋白質を含有するものであることを明らかにしました。病理標本解析から、この間充織特異的蛋白質をはじめ、Arf6経路因子群の高発現は患者予後不良と非常に強い統計的相関を示し、腎明細胞癌の悪性度や薬剤耐性を診断するための優れたバイオマーカーとなることも明らかになりました。腎臓は体液の様々な調節をする臓器ですが、LPAは体液においても容易に産生されます。今回の成果は、腎明細胞癌の悪性度進展の主な原因とその対処可能性を明らかにしたものと評価されます。

2)乳癌の浸潤転移・薬剤耐性分子機構とその診断・阻害法の発見
乳癌は5年生存率が90%程度あるものの、若年層からの罹患率が非常に高く、初期治療が成功した後にも頻繁に再発します。この癌は上皮組織に由来しますが、悪性度の高さと間充織様形質を獲得していることに強い相関があります。今回、細胞内のメバロン酸合成経路が乳癌の転移性や治療耐性に大きく関わることを明らかにしました。本研究者らは以前に、悪性度の高い乳癌の多くにArf6蛋白質とそのシグナル因子であるAMAP1が高発現しており、そのことによって乳癌の浸潤転移が促されることを明らかにしています。また、悪性乳癌にはEPB41L5という本来は間充織細胞に見られる蛋白質が発現していること、EPB41L5はAMAP1の結合相手であり、浸潤転移に必須であることも明らかにしています。乳癌の多くに増殖因子受容体の異常な発現が見られますが、Arf6は増殖因子受容体によって活性化されます。今回、増殖因子受容体からのArf6活性化にメバロン酸合成経路活性が必須であることを、その分子的詳細と共に明らかにしました。同時に、癌遺伝子産物p53がどのようにして乳癌の悪性度を進展させるのかも明らかになりました。悪性乳癌は様々な治療に対して抵抗性を示します。高発現したArf6-AMAP1-EPB41L5経路が、浸潤転移だけではなく、薬剤耐性の根本であることも明らかになりました。高脂血症治療に使われているスタチンはメバロン酸合成経路の阻害剤ですが、スタチンによって乳癌の浸潤転移、並びに、薬剤耐性を著しく阻害することができました。但しこれは、Arf6、AMAP1、EPB41L5を強く発現している乳癌に限ったことでした。一方、国際的乳癌コホートの統計解析は、Arf6-AMAP1-EPB41L5シグナル経路の高発現は予後不良乳癌の半数以上に見られることを示しました。今回の研究成果は、今後の癌治療法改善に大きく貢献する知見となります。