リンパ浮腫は、原発性(特発性)と続発性に分けられます。
原発性リンパ浮腫は、リンパ浮腫患者全体の約10%と推測されており、
遺伝子異常によるものもありますが、多くは明らかな原因の同定が困難とされています。
手術をしていないのにもかかわらずリンパ管の異常で四肢に「むくみ」が見られる疾患です。
続発性リンパ浮腫は、リンパ浮腫患者全体の約90%を占め、原因が特定できるものをさします。
本邦では乳癌や子宮癌などの悪性腫瘍治療の後遺症で発症することがほとんどです。
乳がん、子宮がんや前立腺がんなどの手術でリンパ節を切除し、放射線治療、
薬物療法を行った後に、通常であればリンパ管から回収されるはずのリンパ液が体内に溜まり、
リンパ液の流れが悪くなることで、主に上肢や下肢に「むくみ」が見られます。
多くの場合、切除したリンパ節の周辺や、その部位の先の腕・脚に症状が出てくることが多く、日常生活にも支障をきたすケースも少なくありません。
リンパ浮腫によって四肢の周径差が出ることや、だるさや時には痛みを伴うこともあります。
その他のリンパ浮腫の原因としては放射線照射、転移リンパ節や腫瘍の増大によるリンパ系の物理的閉塞、外傷、感染症などもあげられます。
リンパ浮腫を放置しておくと、皮膚障害から皮下脂肪に炎症が起きる「蜂窩織炎」を繰り返すこともあります。
さらには、周辺の皮膚が厚くなったり、皮下の脂肪組織が変性し硬くなることもあります。
一度リンパ浮腫を発症してしまうと、根治することが難しいため、早期に治療を開始し、いかに悪化させずに浮腫を軽減し、
維持させるかが重要となります。
上記のむくみでお困りの患者様は、大阪大学形成外科リンパ浮腫外来の受診をご検討ください。
リンパ浮腫外来(毎週木曜日) | |
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担当医 | 鹿野雄介医師 |
黒田一也医師 |
浮腫には様々な原因が考えられますが、以下を原因とするむくみとの鑑別が重要です。
大阪大学形成外科では、リンパ浮腫と診断するために、以下の検査を行って診断することになります。
※当院では、国内でも数台しか導入されていない
超高周波超音波診断装置を用い、従来の技術では検出が困難であった、
リンパ管の同定およびリンパ浮腫の診断が可能です。
本技術を用いることでリンパ管の性状の判断も可能であり、
より効果的な手術に繋がると考えています。
図1…0.5mm程のリンパ管を確認しているところ
図2…超高周波エコー SonoSite Vevo MD(リンパ管の観察が可能です)
リンパ浮腫の治療は保存的治療と手術治療に分けられます。当施設では、身体状態や検査結果を踏まえて、以下の治療を行なっています。
リンパ浮腫の治療法の基本は圧迫療法です。圧迫には専用のスリーブやグローブ、ストッキング(以下、弾性着衣)を使用します。
当院においては、医療リンパドレナージセラピストの資格を持った看護師による生活指導、スキンケア、マッサージなども行っております。
弾性着衣選定やセルフケア指導、マッサージに関しては専門の看護師が、「リンパ浮腫・看護外来」で行います。
(https://www.hosp.med.osaka-u.ac.jp/departments/nursing_specialist.html)
弾性着衣の購入費用については、自治体の補助の適用になっているため、申請を行うと後日、購入費用の7割(上限あり)が還付されます。
申請には病院で発行される「弾性着衣等装着指示書」が必要となります。
圧迫療法を継続した上で蜂窩織炎を繰り返す場合や、手術によってさらなる浮腫の改善を目指す場合には、外科的治療の対象となります。
リンパ管静脈吻合術(LVA)は、通常1.0mmにも満たないリンパ管と静脈を吻合することで、滞っているリンパ液を体循環に戻すようにする方法です。
この手術によって、リンパ浮腫の重だるさ、痛み、皮膚の硬さなどの症状を軽減することができるとされています。
また、蜂窩織炎の発症頻度を減らし、あわせて複合的療法の軽減が期待されます。
当院では、超高周波超音波診断装置を用いることで、リンパ液が周囲の脂肪へ漏れ出している場所におけるリンパ管をより効率的に検出し、
その部位のリンパ管を静脈へバイパスする手術を行っています。LVAは、健康保険の対象として認められており、医療保険の給付対象となります。
大阪大学形成外科では一肢につき2~3か所でのリンパ管静脈吻合を行います。それぞれの皮膚切開の長さは、2cm前後です。
皮下脂肪の中にリンパ管がありますが、リンパ管は0.5mm程度と非常に細いため、顕微鏡を用いて手術を行います。
また非常に細かい作業となるため、大阪大学形成外科では原則全身麻酔下に手術を行っていますが、
希望に応じて局所麻酔下での日帰り手術や短期間入院での手術も行っています。
手術の際は、ICGリンパ管造影および超高周波超音波診断装置などを用いて、
最もリンパ管静脈吻合術に適していると考えられるリンパ管を検出し、近くの静脈と吻合を行います。
リンパ管と静脈を吻合した後、リンパ液が静脈へ流れ込んでいることを顕微鏡で確認し、皮膚を縫合して手術を終わります。
基本的にはリスクや合併症の心配がほとんどない、体への負担の少ない手術とされていますが、
傷跡、傷の感染、出血、リンパ瘻(傷からのリンパの漏れ)が挙げられます。
経過により吻合部が狭窄や閉塞してしまう可能性もあり、原則としてLVA後も弾性着衣による圧迫療法の継続が非常に大切です。
また、リンパ浮腫は一度発症すると進行性であること、一回のリンパ管静脈吻合術で改善できるリンパ浮腫には限りがあることから、
大阪大学形成外科では複数回の手術を受けられる方も多くおられます。