DOEFF vol10
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転移前なら、薬だけで治せる時代がやってくる。島津 研三大阪大学大学院医学系研究科外科学講座 乳腺・内分泌外科学 教授国内で年間10万人が乳がんを発症します。比較的若い30代も珍しくありませんが、治る人が多いのも特徴です。現在の死亡数は年間約1万5000人。10年生存率は85%程度ですが、そう遠からず90%に達すると希望をもっています。効果的な薬の登場が治療に大きく貢献していて、分子標的薬のハーセプチンのほか、ホルモン剤がたいへん有効です。乳がん治療は、がんの化学療法をかねてからリードしてきました。2050年には、患者さんの95%は治せるかもしれません。しかし100%にするのはそう簡単ではないでしょう。がん細胞は常に変異していて、薬を用いる化学療法だけではもぐら叩きみたいになってしまうのです。女優のアンジェリーナ・ジョリーさんがHBOC(遺伝性乳がん卵巣がん症候群)と診断され、予防的に乳腺等を切除したことはよく知られています。遺伝子レベルでの対策が普及す乳がんに罹患しても、手術をせずに薬だけで治す未来。心身両面で負担を抑え、安心して治療に向き合える。2020年より大阪大学大学院医学系研究科 乳腺・内分泌外科学 教授。1999年、日本に導入されて間もない乳がん転移検査法「センチネルリンパ生検」の研究を開始。以後、乳房の温存や再建を含め、さまざまな側面から患者のQOL向上に取り組む。2003年には、内視鏡による甲状腺手術の新方式「ABBA」法を考案。れば、残り5%も救えるかもしれません。現在は、乳がんが見つかっても、最初に転移する「センチネルリンパ節」を調べて、そこに転移がなければほかにもないと判断でき、リンパ節を余分に切除しなくても済むようになっています。患者さんのQOL向上が最大の利点。この手法の確立が、私の長年にわたる研究テーマです。手術では、乳房の形を温存、再建する技術も進化していて、今後は再生医療の応用も考えられます。本人の別組織から培養して利用したり、ストックした他人の脂肪をその人に適合させて輸血のように注入したり。夢を膨らませるなら、2050年には手術不要が当たり前になっているといいですね。転移前の微小ながんをアスタチンのようなα線治療薬でつぶしてしまえばいいのです。ともあれ、乳がんで亡くなる人をなるだけゼロに近づけたい。そんな思いが日々の仕事の原動力です。08Kenzo Shimazu2050年にはこうなってる?乳がんで亡くなる人を、乳がんで亡くなる人を、限りなくゼロに。限りなくゼロに。

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