DOEFF vol10
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未来のがん治療にも、外科医の「技」は欠かせない。基本的には延命なのです。ほかの医療機関では対処できず、すがる思いで当院を訪れる患者さんもいらっしゃいます。まさに私たちは最後の砦。「手術で取るのが一番いい。助かるチャンスはある」と判断できれば、リスク等をしっかり説明した上で手術を勧めますし、最高のパフォーマンスを示すためにベストを尽くします。完全に治して、笑顔で帰っていただきたいのです。がんは小さいうちに早く見つけて、最小限の手術で治す。外科医として、それが正しい在り方だと考えています。早期発見するには、画像診断よりも高精度な、しかも血液1滴で分かるような方法が望ましいでしょう。がん細胞は、外部から侵入するウイルスとは違い、あくまで自身の身体の一部。正常細胞とよく似た様々な物質を放出しています。そんなノイズの海の中から、がん細胞由来の遺伝子や代謝産物を確実に拾い上げる感度の良い「センサー」があるといい。技術や機器の進化が待たれます。昔も今も、がんの手術は病気の部分を切り取ることが目的で、そのために手術後に不自由な生活になってしまうこともあります。それを何とかしたい。ひとつのアプローチは臓器再生と移植です。将来的には、がんの手術後にiPS細胞から作製した臓器を移植する方法もあり得るでしょう。さらに、丸々入れ替えるのではなく、湿布のようなものを貼って臓器を治すアイデアもすでに提唱され ています。私の研究室でもプロトタイプを作っているところです。2050年にはこれらが実用化されているといいですね。もちろん、いくら代わりの臓器や特製シートがあっても、体内にデリバリーする外科医の技術があって初めて治療は完結するのだと思います。さらに膵臓の場合、「臓器そのものを培養する必要があるのか」という問いも重要です。脳死者の膵臓からインスリンを産生する細胞を分離し、患者の肝臓の血管に流し込む治療法は、すでに保険診療となっています。肝臓に膵臓の役割を兼務させるわけです。それどころか、インスリン産生細胞を皮下に生着させるだけで効果を得る手法も試みられていて、私の研究室でも研究が進んでいます。臓器の立体的なコピーをつくる発想からの脱却も求められているのが、この分野の最前線なのです。2019年より大阪大学大学院医学系研究科 消化器外科学Ⅰ 教授。専門は膵臓がんや肝臓がんの外科治療。生存率がきわめて悪いこれらのがんの根治にこだわった治療法や早期発見法の研究に注力してきた。阪大病院ではオンコロジーセンター、消化器センター、緩和医療センターのセンター長のほか、未来医療開発部長を兼務する。07Hidetoshi Eguchi

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