認知症も半身不随も、同じ治療で改善する。怒りっぽくなる前頭側頭型認知症(FTD)と、筋肉がやせ衰えて力が入らなくなる筋萎縮性側索硬化症(ALS)。当初はまったく別の病気とみなされていましたが、研究が進んだ結果、発症に関わる共通の分子の存在が明らかになりました。それがTDP-43という物質です。通常、TDP-43はRNAと結合して、神経の突起(軸索)を移動し、先端まで流れていきます。しかし、FTDやALSの患者さんの多くは、TDP-43が神経細胞の中央部(細胞質)に滞留してしまうのです。私の研究室では、TDP-43と結びつくRNAを突き止めました。すべてのタンパク質の生成に関わる「リボソーム」の鋳型となっているものです。これがTDP-43と結合できず先端まで運ばれないと、タンパク質不足で神経細胞が死んでしまうのではないかとにらんでいます。いわゆる神経難病の多くで、似た現象が起きていることが分かってきました。アルツハイマー病ではアミロイドβやタウ、パーキンソン病ではαシヌクレインがたまります。タンパク質の種類は違っても、滞留するのは同じです。神経細胞は分裂せず、新しく置き換わることがないため「ゴミ」が残りやすく、だから機能が低下するのかもしれません。それならば、リボソームの鋳型となる認知症の治療をALSや車いすの人にも適用。患者本人のみならず、家族を含めて多くの人が救われる。(ながの・せいいち) 2021年より大阪大学大学院医学系研究科 神経難病認知症探索治療学 寄附講座教授。神経変性疾患において、動物モデル等を用いた発症メカニズムの解明や、血液・髄液を用いた簡便で精度の高い診断法の開発に取り組んでいる。疾患の原因遺伝子に着目し、「タンパク質の品質管理」という観点を提起。その研究成果が注目されている。RNAをもっと増やしてあげれば、生成されるタンパク質も増えるので、神経細胞を元気な状態に保てるのではないか。これが私の仮説です。動物実験では一定の効果が認められました。脳内の神経細胞の数は加齢とともに減少しますが、軸索が伸びて別の神経細胞につながり、ネットワークが密になれば問題ありません。タンパク質の「工場」であるリボソームは、軸索の伸びにも関与しています。神経に関わる共通のメカニズムの解明が進めば、認知症のみならず、脊髄損傷の治療にも光が差すでしょう。研究の可能性は限りなく広がっています。08タンパク質で神経を元気に。長野 清一大阪大学大学院医学系研究科神経難病認知症探索治療学 寄附講座教授第2回:認知症
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