DOEFF vol13
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克服の鍵は、アルツハイマー病以外の病気を知ること。いところ。歩行がたどたどしくなるのはパーキンソン病にも似ていて、尿失禁を伴うこともあります。どれもお年寄りにはよくみられる症状で、診断が難しい。かつて私の研究グループでMRIによる診断法を確立していますが、それでも現在、「年のせいだろう」と見逃されている人はけっこういると考えています。日本の認知症の患者数は600万人で、うち5%の30万人が特発性正常圧水頭症です。決して少なくない人数だと思いますが、今でもあまり疾患として知られておらず、啓発の必要性を痛感しています。筋萎縮性側索硬化症(ALS)はもっと稀少な病気なのに、研究者の数は多いですからね。ともあれ、頭や背中から管を入れて、水を腹腔に流す手術でかなり症状が改善するのは特筆すべきでしょう。認知症を手術で治すモデルのひとつを示しています。レビー小体型認知症の研究にも力を入れてきました。この病気の特徴は、幻覚が見えること。雲が象に、板の木目が人の顔に、ハンガーがけの服が人そのものに見えてしまうのです。私の研究グループでは、その特性を利用して、人や動物の姿が見えるかどうかをチェックする「パレイドリアテスト」を開発しました。治療に関しても、パーキンソン病のお薬であるアリセプトがレビー小体型認知症にも効くことを突き止めています。おそらく発症のメカニズムが共通しているからでしょう。効果を高めるための服薬の量やタイミングの見極めが大切で、現在も研究を進めています。かつて、結核やがんは不治の病でしたが、今そこに位大阪大学大学院連合小児発達学研究科行動神経学・神経精神医学 寄附講座教授置するのが認知症です。一度罹るとアウトだと思われていますよね。そのせいか、民間療法を含め、真偽不明の情報が飛び交っているのが実情です。イチョウの葉っぱのエキス、とろろ芋、米ぬか油が効く……といったような。残念ながら、どれもエビデンスはありません。研究が進むことで、そういう情報は淘汰されていくだろうと考えています。一方で、リスクを低減するものとして一定のエビデンスが確認されているのは、適度な運動、偏りのない食生活など。やらないよりはいい、というレベルですけどね。がんは精密医療が浸透し、テーラーメイドに近づいています。同じように認知症でも、遺伝子レベルの解析に基づいて、効果的な治療法を患者さんごとに施せるところまで到達しなければなりません。患者さんと直接向き合って、病気の克服を目指す臨床研究に携わっていることに、私は誇りを感じています。基礎研究の成果を、実際の医療現場でどのように活かすか。認知症においても、EBM(Evidence-Based Medicine=根拠に基づく医療)を確立するのが、自分の使命だと考えています。(もり・えつろう) 2017年より大阪大学大学院連合小児発達学研究科 行動神経学・神経精神医学 寄附講座教授。専門は行動神経学、認知神経学。これまで脳神経内科医として、脳血管疾患、神経変性疾患、特発性正常圧水頭症、レビー小体型認知症などを対象とした診療及び臨床研究を行ってきた。認知症の種類までを判定できる診断法の開発にも力を注いでいる。11森 悦朗

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