早期発見と特効薬の組み合わせが強力な武器に。アルツハイマー病の原因物質として、アミロイドβと タウが知られています。2023年、前者を除去する特効薬のレカネマブが承認されて話題を呼びました。現在、私の研究グループでは後者を対象とした治療法の開発に取り組んでいます。理想をいえば、ワクチンで認知症を「予防」できるといい。インフルエンザに罹らないようにするのと同じように、アミロイドβやタウに対する免疫を獲得するイメージです。それらの物質は、発症の20年前ぐらいから少しずつ脳内にたまり始めています。その20年でなにか手を打てないだろうか。多くの研究者がそういう思いを抱いています。私の研究グループでも、血液検査でアミロイドβやタウのたまり具合を判定する技術を研究中です。認知機能の衰えを早期にとらえることが重要ですが、従来はなかなか手立てがありませんでした。「MMSE」といった従来の認知機能検査は、時間がかかり、受ける方の負担も大きいとされます。それをクリアするべく、私が開発したのが、受診者の目線の動きだけで検査できる方法です。ボタンを押す、タッチするなどの操作も必要なく、画面内で正解を探してもらうだけで構いません。目線の動きを追跡して解析する「アイトラッキング」の(たけだ・しゅこう) 2016年より大阪大学大学院医学系研究科 臨床遺伝子治療学 寄附講座准教授。2019年、目線の動きを解析する「アイトラッキング」の技術で簡便かつ客観的に認知機能を評価する検査法を開発し、世界的に高く評価された。そのアプリは、アイトラッキングを利用した認知症のプログラム医療機器としては世界初の薬事承認を得た。タブレットを使って気軽にいつでもどこでも検査できる。定期健診のメニューに組み込む手もあるだろう。技術により、精度の高い判定結果が得られます。検査時間は3分程度。アプリとして配信できますから、ダブレットさえあれば世界中どこでも受けられます。クリニックの待合室や、将来的には自宅で検査を済ませることも可能。この手軽さが最大の売りです。2023年、日本初の認知症プログラム医療機器として国の承認を得ることができ、実用化に向けて大きく前進しました。いずれは健診で定期的にチェックできるようになるといいですね。認知症の根治は容易ではないと思いますが、早期発見と特効薬の組み合わせが、克服のための強力な武器になると信じています。大阪大学大学院医学系研究科臨床遺伝子治療学 寄附講座准教授05目線の動きだけで検査ができる。武田 朱公
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