DOEFF vol14
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高度な画像技術が、医療の形を根底から変える。放射線治療の進化形として、セラノスティクスが定期健診のメニューに。診断や治療までがセットで行われる。(わたべ・ただし) 2024年より大阪大学大学院医学系研究科 放射線医学講師。患者個々の病態を正確に捉えて、診断と治療を一体化し、個別化医療の実現を目指す新しい医療技術「セラノスティクス」が専門。アルファ線を使って体内からがんを攻撃する治療法の開発に携わり、これまで難治性の甲状腺がんと前立腺がんで医師主導治験を開始している。分ほど撮影装置のベッドに横たわっていればOK。これほどまでに負担は少なくなっています。いずれは、40歳や50歳のときに定期健診や人間ドックでPET検査を受けて早期にがんを発見するのが一般的になるといいですね。1回の検査ですべての異常を把握し、アルファ線治療薬の配合を即座に割り出して、やはり1回の治療で完結する、となればすごいことです。そもそも、毒性の強いアルファ線を治療に使うアイデア自体が常識を超えていたといえます。柔軟な発想が治療を進化させた医学の歴史にならい、私も既成概念にとらわれず、研究にまい進していきたいです。12「放射線治療」といえば、多くの方はがんの部位に体の外から放射線を当てる治療を思い浮かべるでしょう。私が研究しているのは、体の内側からがんを攻撃する方法です。具体的には、アルファ線を放出するアスタチンを抗がん剤に標識して注射し、全身に行きわたらせてがん細胞にアプローチします。アルファ線の特徴は、すでに保険診療でも使われているベータ線と比べて飛程(=飛ぶ距離)が短いこと。周辺の臓器に悪影響が及ばないのに加え、攻撃力はより強いため、高い治療効果が期待できます。2024年からは前立腺がんの医師主導治験が始まりました。前立腺がんの細胞表面に存在するPSMAというタンパク質を標的としたアスタチンの化合物は、世界で初めて阪大が作製したものです。がんの種類を問わず効果のある標的薬の開発も進行中。さまざまながんに共通して発現しているLAT1というアミノ酸トランスポーターから、アスタチンが付加されたアミノ酸を取り込ませてがんを攻撃する方法は、2年以内の治験開始を見込んでいます。近年はテクノロジーの発達により、PET検査の画像がかなり鮮明になりました。それまではとらえるのが難しかった小さい病変も見逃しません。薬剤を投与して20放射線を体内から「武器」に変える。渡部 直史大阪大学大学院医学系研究科放射線統合医学講座 放射線医学 講師

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