メッセンジャーRNAが悪い細胞を退治してがん予防。カーティーがん細胞を狙い撃ちするように改造したリンパ球であるCAR-T細胞を本人の体内に戻して、がんを撃退するのがCAR-T細胞療法です。日本ではすでに血液がんで保険適用され、海外でも広く行われるようになっています。もともとは、がん細胞だけに発現している物質を見つけようと世界中の研究者たちが奮闘しながらも、あまりうまくいっていませんでした。そんな中で私は、多発性骨髄腫において、インテグリンβ7というタンパク質の3次元構造ががん細胞と正常細胞で異なることを突き止めたのです。CAR-T細胞には、がん細胞の「目印」となるタンパク質を見つける「センサー」が人工的に加えられています。骨髄性白血病といったほかの血液がんや、乳がんや肺がんといった固形がんでは、「目印」は見つかっていませんので、その探索にも力を注いでいるところです。細胞療法が進化すれば、予防への活用も見えてきます。鍵となるのは、細胞が本来的に備えている力。つまり自分の体内の悪い細胞を排除する機能です。それを強化した細胞をつくって点滴で投与すれば、血流に乗って全身を巡り、遺伝子の異常が生じている細胞を検知して排除できます。がんを防いで元気に年を重ねられるといいずれはオーダーメイドの細胞薬が登場。会社帰りにクリニックで点滴するだけでがん予防。(ほせん・なおき)2020年より大阪大学大学院医学系研究科 血液・腫瘍内科学 教授。血液内科の臨床を経験したのち、抗体医薬や分子標的薬の登場に衝撃を受けて研究を開始。血液がん細胞に特異的な細胞表面抗原を同定し、それを標的とした抗体療法及びCAR-T細胞療法の開発に注力するほか、他人の細胞由来のCAR-NK細胞による治療法の開発にも着手している。う意味では、究極のアンチエイジングといっていい。実際に、意図通りに細胞をつくりかえることは技術的には可能となっています。使う遺伝子として考えられるのはメッセンジャーRNAです。一定期間、体中の悪い細胞を全部退治した後に消失するので、危険性はほぼありません。そもそもがんにならないようにするというのが、一つの大きな流れです。がんになる前に悪い要因を見つけて対処する。簡単かつ安価に済み、本人は仕事を休まなくてもいい。細胞療法は、がん治療の在り方を根本から変える力を秘めているのです。13パワーアップしたリンパ球ががんを狙い撃ち。保仙 直毅大阪大学大学院医学系研究科内科学講座 血液・腫瘍内科学 教授
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