DOEFF vol14
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研究者の協力関係が成果を生む。論文発表の当初はなかなか理解されず落胆しましたが、次第に各方面から問い合わせや激励の声が増え、勇気付けられました。その成果により、2005年には神経再生分野のアメリテック賞を日本人として初めて受賞しています。神経の再生を阻むメカニズムが2、3年のうちに一挙に明らかになったわけですが、そう簡単にことは進みません。再生を阻害するシグナルを抑制すれば回復が見込めると考えた私は、Nogoやp75をノックアウトしたマウスで実験を行いましたが、脊髄損傷の回復は見られませんでした。気を取り直して、「もっと強い因子があって、弱い因子をブロックした程度では効かないのではないか」と仮説を立て、新たに着目したのがRGMという因子です。当時ほとんど誰も気に留めていなかった物質ですが、脊髄損傷させたマウスにRGMをブロックする中和抗体を投与したところ、運動機能が改善。軸索を調べるとぐっと伸びていたのです。この路線なら治療薬の開発につながると直感して研究を進める上で大事だったのは、研究者のコミュニティを形成することでした。Nogoが発見された際は、ライバル関係にある研究グループが互いに実験結果を認めず、■謗し合う有様。「RGMではそういうことがあってはならない」とかなり早い段階で意識し、淡路島で開催したRGMの国際会議では、世界中からRGMの研究者たちを招いて親睦を深めました。そうやって良好な関係を築けば、こちらが論研究を加速し、サルの実験でも同様の効果が確認できました。当初は背骨の中に投与する方法をとっていましたが、やがて静脈注射で高い効果が得られることが判明。人への治療法として普及しやすいというメリットも明らかとなりました。2005年から、現・田辺三菱製薬と共同で治療薬の開発に取り組んでいます。2011年に薬剤が完成し、マウスやサルの実験を積み重ねた末の2019年、人に対する第Ⅰ相の臨床試験を開始。2021年からは第Ⅱ相の臨床試験に移行しました。これを乗り越えると、数年以内の実用化が見えてきます。つまり、脊髄損傷しても治せるようになるということ。しかもこの治療薬のコンセプトは「神経回路の修復」であり、あらゆる神経疾患でメカニズムは共通しますから、脊髄損傷以外にも使える可能性があり、実際にほかの疾患に対する臨床試験は始まっています。まさに新しい時代の到来を告げる薬といっていいでしょう。私のもう一つの大きな目標は、次代を担う人材の文を発表した場合にも、快く再現実験を行ってもらえます。私は、治療法の開発につなげるために、実験が再現できることを徹底的に確認してきました。多面的に検証を繰り返して、効果や副作用を見定めていくわけです。そのためにも、同じ研究室の別の人が追試を行い、その後に別の研究室に依頼して、やはり追試をしてもらうプロセスは欠かせないのです。16Column夢にまで見た治療薬の実用化が見えてきた。原点を忘れずに、未来を見据える。実験結果はちゃんと再現できるか?

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