ポリープスコア(PRS)研究チームは、同じ計算手法で疾患リスク予測を繰り返すだけで胚の順位が変わることも突き止め、このサービスの問題点を指摘しています。大腸のポリープががんになるには、約10~20年を要することが知られており、がん化を促す要因を調べるのにも長い年月が必要です。家族性大腸腺腫症(FAP)は大腸にポリープが100個以上できる遺伝性の希少疾患ですが、短期間でがん化することが多いため、腸内環境の観察に適しています。谷内田真一教授(がんゲノム情報学)らの研究グループは、FAP患者の腸内環境を経時的に観察し、腸内細菌の種類に大きな変動がある際にがんが引き起こされることを発見しました。この事実は、FAP患者に限らず広く一般の人にも当てはまると考えられます。大腸がんの原因となる細菌を特定し、腸内環境を改善させることは、予防への大切な一歩となるはずです。個人のゲノム配列を解読し、集計したポリジェニック・リスク・スコア(PRS)で疾患リスクの予測が可能になっています。個別化治療への応用がさかんに研究されていますが、医療現場での実用化には至っていません。一方、海外では複数の体外受精卵の胚をPRSで評価し、子宮に移植するものを選ぶサービスが提供され、実際に子どもも生まれています。難波真一助教、岡田随象教授(遺伝統計学)らの研究グループはバイオバンクの公開データを用いて、このサービスの精度を検証。計算手法を変えることによって胚の順位が大きく変わってしまうことが明らかになり、信頼性への疑問が浮上しました。今後、社会としてどこまで許容すべきか、技術的・倫理的観点からの議論が望まれます。26[正常粘膜]大腸がんになるには長い年月がかかります。だからこそ、日頃の健診で兆候を早期に発見し、予防や治療につなげることが重要です。[小さなポリープ]腸内細菌の種類の変動幅がカギ[大腸がん]受精卵の選択PRS病気リスクの予測KeywordKeywordポリジェニック・リスク・腸内環境を改善してがん予防。疾患リスク予測の問題点を探る。
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