DOEFF vol15
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コラーゲンからなる「細胞外マトリックス」が鍵を握る。(つまき・のりゆき)2021 年より大阪大学大学院医学系研究科 組織生化学 教授。整形外科医としての経験から、根治が難しい軟骨疾患に対する治療法の開発が必要と感じて基礎研究の道へ。軟骨のコラーゲン遺伝子の特定・解析に取り組む。京都大学 iPS 細胞研究所在籍時に、iPS 細胞から高品質な軟骨組織の作製に成功。実用化の期待が高まっている。妻 木 範 行変形性膝関節症が完治する時代がやってくる。海外旅行も楽しめるようになるだろう。大阪大学大学院医学系研究科生化学・分子生物学講座 組織生化学 教授関節の軟骨は一度傷つくと元に戻らないとされてきました。そういう「常識」を打ち破るものとして、再生医療への期待が高まっています。これまでは、軟骨細胞を関節に投与する方法が試みられてきましたが、軟骨細胞だけを投与するのではうまくいかないことが分かってきました。そもそも軟骨には、軟骨細胞のほかに細胞外マトリックスと呼ばれる物質が含まれていることに留意する必要があります。細胞の成分はほとんどが水です。コラーゲンからなる細胞外マトリックスがあるからこそ、軟骨は体重がかかっても壊れない強さを獲得します。そこで私たちは、iPS 細胞から誘導した軟骨細胞に細胞外マトリックスを作らせて、細胞と細胞外マトリックスからなる軟骨を作りました。動物実験を経た 2020年、人の膝に移植する臨床研究を実施。企業治験から実用化までは、そう遠くないと考えています。他人由来の iPS 細胞を使う場合の課題は拒絶反応です。関節の欠損が軟骨部分にとどまらず、血流が豊富な骨まで達している場合、そこに移植すると、拒絶はされないものの免疫反応が生じることが分かりました。とはいえ、関節の不具合は命に直結するわけではなく、治療の目的は QOL(生活の質)の改善ですから、副作用をもたらす免疫抑制剤を使うのははばかられます。感染症を患ってしまっては元も子もありません。そのため、ゲノム編集で HLA と呼ばれる遺伝子を操作して拒絶反応を抑える研究にも力を入れています。膝や腰が痛くて諦めていた旅行に行けるようになる日がいずれやってくるでしょう。加齢で膝が悪くなったお年寄りから、野球で肘を痛めてしまった中学生まで、それに悩まされることなく、人生を楽しんでほしい。それが私の願いです。DOEFF Vol. 1509諦めて い た関節の痛みからの解放 。

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