DOEFF vol15
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再生医療・医療機器開発により新しい医療の扉を開く。宮 川 繁(みやがわ・しげる) 2021 年より大阪大学大学院医学系研究科 心臓血管外科学 教授。早くから再生医療に着目し、患者自身の足の細胞から作製した「ハートシート」の移植など、従来の心臓血管外科にはなかった発想の治療を数多く手がける。患者負担の少ない心不全治療を目標とし、細胞製品、新規薬剤、デバイスの開発とそれらの臨床への応用に取り組んでいる。心筋シートや人工心臓を活用するだけでなく、仮想空間で再現した患者のコピーを AI で分析して効果の高い治療法を見出す時代へ。大阪大学大学院医学系研究科外科学講座 心臓血管外科学 教授1999年、阪大病院で日本初の脳死法案下での心臓移植手術が行われました。現在は国内で年間 100件程度。ドナー(臓器提供者)不足のため、120万人とされる心不全患者数からすると圧倒的に件数は少ないといえます。移植に頼れない状況を踏まえ、私たちはかねてから再生医療に着目してきました。はじめに注力したのは、足の筋芽細胞から作製したシートを心臓に貼る方法です。2007年、人工心臓を取り付けた複数の患者に施したところ、回復して長期生存する人も。足の筋芽細胞に目を付けた先駆はフランスでしたが、心臓に直接注射する方法だったため、不整脈などの有害な副作用が確認されていました。私たちのアプローチの特長は、シート状にして安全性を確保したことです。現在は iPS 細胞から培養した心筋組織のシートに取り組んでいます。動物実験で効果の高さが認められ、医師主導治験が完了し、次なるステージに向けて研究開発が進行中。iPS 細胞由来の細胞は、移植するとがん化のリスクがありますが、がん化を防ぐ薬剤を数年かけて特定し、その課題を解決しています。ある治療が効く人もいれば効かない人もいて、その線を引いているのは何か、ほとんど分かっていないのが実情です。心筋症に限ってみても原因不明なことが多い。そこで、患者さんの血液から iPS 細胞をつくり、心筋細胞に分化させて試験管内で調べ、原因を探ろうとしています。このように一言で iPS 細胞といっても、研究のアプローチは多様なのです。それ以外にも、仮想空間で患者さん自身を再現し、その人に効く薬や将来の病気のリスクを予測する阪大の「バイオ・デジタル・ツイン」のプロジェクトに参加しています。患者さんに最適な医療を提供するのに、外科か内科かは関係ありません。新しい治療法を見出すためにも、私たちは日々奮闘しています。12第4回:再生医療専門 の枠を越えて心疾患に立ち向かう。

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