具合の悪くなった眼のパーツだけを取り換えて視力改善。林 竜 平よく見えるようになれば、QOL(生活の質)は間違いなく向上する。眼鏡のような補助器具も不要に。(はやし・りゅうへい) 2024年より大阪大学大学院医学系研究科 招へい教授。神戸大学大学院自然科学研究科修了後、製薬会社、東北大学大学院医学系研究科を経て、2016 年大阪大学大学院医学系研究科 幹細胞応用医学 寄付講座教授。眼科領域の再生医学研究に従事し、眼の主要部分の要素からなる組織の作製や、涙腺のオルガノイドの作製に成功している。大阪大学大学院医学系研究科招へい教授あらゆる細胞に変化させられる ES 細胞や iPS 細胞などを用いた眼の再生医療を研究しています。キャリアの最初に取り組んだのは角膜の再生でした。角膜の周辺部に存在する幹細胞がなくなってしまう角膜上皮幹細胞疲弊症などの重篤な疾患に対して、かねてから角膜移植は行われてきましたが、拒絶反応やドナー(提供者)不足が課題だったからです。当初、iPS 細胞から角膜上皮への分化誘導に取り組みましたがうまくいかず、「狙ってつくる」難しさを痛感します。そこでなんとなく開き直って、最低限の栄養を与えるだけで 1か月ほど放ったらかしにしたところ、同心円状に複数の層が重なっている組織が発生したのです。驚きながらも詳しく調べると、眼球の構造に似ており、内側の 1 層目から神経系、網膜、水晶体、角膜といった4 層になっています。まさにそれは眼のオルガノイド(ミニ臓器)でした。iPS 細胞の自律的な分化能力にまかせたのが功を奏したようです。眼の「全体」ができたことで、そこから逆算するように、角膜などの各部位への誘導の方法も見えてきました。阪大では 2019年、世界で初めて iPS 細胞由来の角膜上皮シートの移植を実施し、臨床研究が順調に進んでいます。2022年には涙腺のオルガノイドの作製に成功し、重症のドライアイを引き起こすシェーグレン症候群の治療に一筋の光が差し込みました。眼と再生医療の相性は抜群にいい。眼は外部から観察しやすく、問題があればすぐに対処できます。血管が少ないため免疫による拒絶反応も起きにくい。そして何よりも、視力に直結するので QOL(生活の質)の向上に大きく貢献します。私の役割は、オルガノイドを活用した研究を進展させ、その成果を社会に還元すること。未来の再生医療が、一人でも多くの患者さんが「見える喜び」を取り戻す手助けとなれば幸いです。DOEFF Vol. 1513眼の再 生 医療で、「見える喜び」を取り戻す。
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