土岐祐一郎第二回 大阪大学大学院医学系研究科消化器外科学教授漫 画も大 好きで す。ストーリー仕立ての長編も面白いですが、4 コマなどのさらっと読める作品もお気に入り。特に『じみへん』を代表とする中崎タツヤの漫画は、全作を家の本棚に揃えています。阪大医学部の教授として少々ベタな作品を選んでみました。大阪の国立大学医学部を舞台とする『白い巨塔』に出合ったのは高校生の頃。友人の間では「財前先生派か、里見先生派か」なんて論争もありましたが、私はもっぱら財前派で、自信と上昇志向、馬力に満ちた姿に憧れました。医学部への進学を考えていましたから、少なからず影響された作品です。読み返すと、当時の医学界のありようが、現代とはずいぶんとかけ離れていることに驚かされます。倫理観しかり医師の働き方しかり。権力闘争の描写も実に生々しい。現在の基準からすると相当に過酷であり、今の医学生や若手医師が読むと「なんで?」と疑問符ばかりが浮かんでしまうかもしれません。さすがに当時も実際はそこまでではなかっただろうという程度に、エンターテインメントとして誇張されている部分もありますしね。それでもなお本作が魅力的なのは、普遍性を内包した人間ドラマでもあるからでしょう。多くの登場人物が、その人なりの使命感を抱いて医師として奮闘する様子から、今の読者も何かを感じとれるはずです。若い頃は、未知の世界に触れたくて乱読し、とりわけ純文学に傾倒しましたが、年を重ねるごとに「これ以上世界を知ってもなぁ」という気持ちが強まり(笑)、移動中に気軽に読める歴史小説なども楽しめるようになりました。ともあれ、経験できる世界に限りがある若いときほど、読めるだけ読んでおくと、視野が広がっていいと思いますよ。(新潮文庫刊)(小学館刊)2828Doki’s PickExtra Pick山崎豊子『白い巨塔』中崎タツヤ『じみへん』時代のギャップを超越した人間ドラマの息遣いを感じてほしい。
元のページ ../index.html#30