DOEFF_vol1
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ていたものが、実はがん細胞ではないと判明する可能性もあります。悪者だと信じ切っていたけれど、よくよく調べたらものすごくナイスガイだった、と。「一体、僕らは何を間違えていたんだ?」となるけれど、こういったフィードバックが返ってくることによって、僕らの診断精度はますます上がっていくはず──。というのが、僕の想像する2030年です。これまで人類は、腫瘍をなんとかコントロールしたいと思ってきました。取れるなら手術するのが今でも一番で、取れないものは化学療法や放射線療法、それでも上手くいかないなら分子標的療法。これはがん細胞だけが持っている遺伝子やタンパク質、つまりがんの増殖や転移に必要な分子を特異的にアタックすることでがん細胞の増殖を抑える治療方法です。ここまでが従来からの治療方法になりますが、あらゆるがん細胞に効く万能な治療はありません。そこで浮上してきたのが「個別化療法」。オバマ前米国大統領が推進すると語っていた「プレシジョン・メディシン」です。簡単に説明すると「それぞれのがん細胞で個性が違うから、その個性に合わせた治療方法を選ぶ」というもので、これが2030年頃のがんとの向き合い方のスタンダードになるでしょう。現時点での抗がん剤治療は、がん細胞に対して一律に首を絞めて息の根を止めようとするものです。ところが首のガッシリしたがん細胞もいるわけで、同じように攻めても根絶できず、復活したあかつきには復讐をしかけてくる細胞もいます。それが現時点での抗がん剤治療です。一方、各々のがん細胞のウイークポイント(弱点)をきっちり調べた上で、確実に効く治療方法を選択できたら最高ですよね。それをなるべく早く実現したい。これからの10年間が勝負です。ウイークポイントを洗い出して、それに対する治療方法を考える。僕ら病理はあらゆる科の研究者と付き合うのですが、これはみんなが一丸となって進めていく重要な研究になるでしょう。1988年に京都大学薬学部薬学科卒業。1992年大阪大学医学部医学科卒業。1996年大阪大学大学院医学研究科病理学専攻修了。2006年より2007年まで、医学部附属病院助教授。2007年より2008年まで、医学部附属病院准教授。2008年より2011年まで、医学系研究科病態制御医学准教授。2012年より大学院医学系研究科病態病理学教授。DOEFF Vol. 0109Eiichi Morii

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