DOEFF_vol1
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1986年に大阪大学医学部卒業。1989年から1991年まで米国国立麻薬研究所客員研究員。1996年から1997年まで大阪大学医学部解剖学第二講座助教授。1997年から2009年まで名古屋市立大学医学部分子形態学教授。2009年4月より大阪大学大学院医学系研究科神経細胞生物学教授。脳のメカニズムが解明されるに従って、脳に関わる病気の治療方法も多様になる。たとえば複数の要因が重なり合って発症するうつ病に対しても、多様な治療法の組み合わせで対応できるようになる。運動が全身にいろんな効果をもたらすことはよく知られています。なかでも僕らが注目するのは運動が「認知機能」や「情動」に及ぼすポジティブな影響です。脳には「海馬」という情動や記憶に関係する部分があって、ここでは脳内でも例外的に大人になっても新しい神経細胞が生まれています。これが活発に行われるか否かを決める要因のひとつが運動で、新しく生まれた神経細胞は「抗うつ効果」に関係します。僕らは運動によって脳で放出されるセロトニンがセロトニン3受容体を活性化し、神経新生を増やし抗うつ効果をもたらすメカニズムを明らかにしました。うつ病の患者さんに「運動しましょう」と言ってもなかなか難しいでしょうけど、このメカニズムを薬で刺激して同じ効果が得られるなら、新たな抗うつ薬を生み出せます。従来型の抗うつ薬「SSRI」も神経新生を増やして抗うつ効果を得ますがメカニズムはまったく異なるため、この異なる2つの薬を同時に使えば、単独の場合よりも抗うつ効果を高められる可能性があります。そもそもSSRIの効きが弱い患者さんもいますが、そういった人にも新しい薬なら効果があるかもしれません。いずれにしても、うつ病治療の選択肢が増えることが期待されます。2030年にもなると脳のメカニズムはもっと解明できているでしょうが、文明が進み運動量が減ると人の筋肉が衰えるように、人工知能が発達して人に替わって様々なことを判断するようになれば脳が衰えたり、脳に関する新たな病気が生まれる可能性があることが心配です。いつの時代も新しい何かの登場によって失われるものは必ずありますが、それをどう補い健康や幸福を維持していくのか。これは常に人類が向き合っていくべき命題かもしれませんね。大阪大学 大学院医学系研究科 解剖学講座 神経細胞生物学 教授prospective viewDOEFF Vol. 0111Shoichi Shimada2030年にはこうなってる?脳のメカニズムの解明が進み、うつ病の治療の選択が拡がる。抗うつ効果が得られる新たなメカニズムを明らかに。05島田 昌一2030

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