DOEFF_vol2
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DOEFF Vol. 0209Masaru Ishii2013年より、大阪大学大学院医学系研究科/生命機能研究科 免疫細胞生物学 教授。特殊な顕微鏡によって生きた骨の内部を視る「生体骨イメージング技術」の研究に取り組む。2013年には「破骨細胞」が骨を壊していく様子を、世界で初めて可視化。2018年、マウスの骨の内部をリアルタイムで観察し、丈夫な骨を維持する細胞の働きを解明した。ます。たとえば人体の深い場所。細胞だけでなく分子の動き。細胞内で移転しやすいものを観る。画像の解像度を高める。より長時間観る。こういったことを日々研究しています。観られない場所、観られない組織、観られない現象が、今後観られるようになると、新たな疑問がわくでしょう。このあたりもこの研究の大切な部分。ここまでが私たちの研究におけるひとつ目のミッションです。ふたつ目のミッションは、これらの技術をもって医療に貢献することです。やはり私たちは医者ですからね。たとえば骨の中で、破骨細胞と骨芽細胞がやりとりする様子を目にできると、新しい治療方法が見えてきます。新しい薬も開発されるでしょう。新たな治療方法と新しい薬はセットです。薬を天然物から抽出していた時代、化合物で作る時代を経て、今やゲノム創薬の時代になりつつありますが、今後は生きた細胞に薬を投与したときの様子を直に観察できるようになるため、効き目をリアルタイムで評価する時代に変わっていくでしょう。その結果、まったく新しいタイプの薬が生まれてきても不思議ではありません。現在のところ「がんかどうか」を判断するには「生検」を行っています。生検とは、生体から組織切片を取って病理診断することですが、ここにはいろんな問題があります。まず組織を切れば痛い。それに切り取ってしまったら、同じ場所は二度とまったく同じ状態では診られません。けれども取らずに診ることができたら、怪しいと思った箇所を改めて診なおすことができます。いずれにしても目で観る「視診」と、切り取って精密に観る「生検」との間に、顕微鏡をあてて生きたままの状態を観る方法が実用化されれば、診断学の大変革になるのは間違いありません。これにはCT検査やMRI検査が生まれたときと同じくらいのインパクトがあります。もちろんノーベル賞級の話です。診察室で聴診をして、レントゲンを撮って、というのが現在では普通の光景ですが、今後は「ここが痛い」と患者さんがいったらエコー診断に使うような機器がさっと現れて、すぐさま患部の画像が診られる時代になるのではないでしょうか。そうなると医学の現場の風景は大きく変わります。2030年頃には、それが実用化しているといいですね。生きたままの体内を診ることで、医療に革命を。

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