DOEFF_vol2
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2030年にはこうなってる?高齢者が闇雲に検診をしない世の中になっている。彼らにとっては検診をしないこともひとつの正しい選択であるという認識が広がっている。私が専門とする疫学研究は、特定の集団のなかである病気が起こる頻度を把握し、病気とその要因との関係を明らかにするものです。近年私が関わった研究だと、中学生から高校生くらいの女の子に接種されてきた子宮頸がんワクチンの副反応に関するものがあります。このワクチンは世界では普及に向かっているのに日本は例外です。ショッキングな副反応の様子がテレビ報道された影響で、一時期は70~80%あった接種率が現在は0%近くにまで落ち込みました。その副反応は、本当にこのワクチンが引き起こしたのか。その因果関係を直接明らかにする疫学研究を事後的に実施するのは困難ですが、少なくともワクチンによらない類似した症状が一定程度存在することを明らかにしました。このワクチンについてはこれら証拠を元に、改めて普及を検討する必要があります。一方で、盲目的に良いことと思われている「がん検診」には過剰診断という有害性があることを啓発することも私の仕事。過剰診断とは「放置しても害のないがん」を見つけてしまうことです。たとえば福島県で30万人のお子さんに対して超音波検査をしたところ、100名の甲状腺がんが見つかりました。甲状腺がんはリンパ節転移があっても5年生存率95%。亡くなる人はほとんどいません。放射線の影響を検討する以前に、検査を行うこと自体の利益不利益バランスを考える必要があります。福島の甲状腺検査に限らず、お年寄りに実施される「がん検診」についても然りです。過剰診断の影響は想像以上です。専門家が考える利益不利益バランスと、一般の方が考える利益不利益バランスには大きなギャップがあります。使うべきもの、使わないほうがいいものはエビデンスに基づいて判断すべきです。2030年頃には、このギャップがなくなっていてほしい。誰もが間違った知識で損をしない人生を送れる社会にしていくことが、私の仕事です。Tomotaka Sobue2012年より大阪大学大学院医学系研究科 環境医学 教授 。医学に社会科学的な知見を取り入れながら健康問題に取り組む「環境医学」に従事。特にがん疫学を専門とする。2006 年には国立がんセンター(現:国立がん研究センター)がん対策情報センターがん統計研究部長として「がん基本推進基本計画」の策定に携わり、計画の根拠となるがん統計を提供した。ワクチンや検診の有効性を、確かな証拠によって明らかに。祖父江友孝大阪大学 大学院医学系研究科社会医学講座 環境医学 教授042030prospective view健康的な人生を送るために、医療の在り方を考える。10

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