DOEFF_vol2
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14ません。もちろん、新しいチャレンジにはリスクが伴いますし、医療は博打ではないから、「先手」で「必勝」しなくてはお話になりません。だからあらゆる努力を重ねてきたつもりです。僕が「一番」にこだわるのには理由があります。まず、病に苦しむ患者さんを一刻も早く救うため。一番にこだわっていると、人工心臓のメーカーも新しい製品を開発したら、一番に我々に話を持ってきてくれます。そして何よりも、優秀な人材を獲得するためです。日本では心臓外科は不人気で、どの大学でも心臓外科医を目指す若手がひとりいればいいレベル。ところが阪大には、毎年若手が10人以上も入局してきます。「新しい心臓の手術を学ぶなら阪大」というブランドのおかげです。実際、阪大では、若手医師であっても世界最先端の治療を手がけています。つい先日も「IMPELLA(インペラ)」という新しい人工心臓を用いた手術を若手が成功させました。10年後、彼らはその道のスペシャリストになっているでしょう。彼ら自身、それをよく理解しているているのが再生医療です。僕自身は、2000年頃から東京女子医科大学の岡野先生が開発した「細胞シート」を活用する研究を重ねてきました。その結果生まれたのが、患者さん自身のふくらはぎから培養した細胞シートを用いた治療方法です。細胞シートを心臓に貼り付けると、シートから筋肉の損傷を治癒する働きを持つタンパク質「サイトカイン」が分泌され、弱った心臓が回復します。2002年頃から動物実験で安全性を確かめ、2007年に初めてヒトでの臨床試験に成功、2016年には株式会社テルモと共同で世界初となる心不全治療用再生医療等製品「ハートシート」を完成させました。ほかにも、iPS細胞を用いた新たな治療方法の開発も進めています。人工心臓、心臓移植に加え、再生医療というカードを手にしたことで、僕たちはより多くの患者さんを救えるようになりました。これこそが、阪大が「最終受け入れ病院」として期待され、難しい症状を抱えた患者さんが世界中から集まる理由です。僕の研究者としての座右の銘は「先手必勝」です。2006年に教授になってからは「阪大の心臓外科は世界の10年先を行かなくてはならない」という気持ちで、チャレンジを重ねてきました。再生医療分野のみならず、心肺同時移植、新型カテーテルの導入など、日本初となった試みは数知れ世界の10年先を。新しい医療を阪大から始めたい。患者自身の足の筋肉(骨格筋)から筋芽細胞を採取。そこから培養・作製された細胞シートを心臓表面に移植すると、細胞シートから筋肉の損傷を治癒する働きを持つタンパク質「サイトカイン」が分泌され、心臓表面で血管新生が起き、心臓機能の回復が促される。ハートシート培養した細胞から作製したシートを心臓表面に移植患者自身の骨格筋から筋芽細胞を単離・培養自己由来筋芽細胞シート移植の概要骨格筋「ハートシート」

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