DOEFF_vol2
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DOEFF Vol. 0207れから数年の間にきっと現実化するはずです。現時点では、脳に電極を埋め込むことは大がかりですが、将来的には頭部に何かを貼る、あるいはごく小さなチップを埋め込むだけで脳信号をキャッチできるようになるなど、今よりも手軽になっていくことでしょう。そのうちに脳波を通して「何をしたい」、「何を食べたい」、「何を見たい」などの意志も、容易に伝えられるようになるかもしれません。2030 年には、脳の可塑性を上手に促すトレーニングも進んでいるでしょう。動かない手があるなら、動くように脳を変化させる時代の到来です。たとえば「正常な人」と「麻痺の人」「麻痺から回復しつつある人」の脳の活動を分析することで「こういう風に脳が変化すると麻痺がよくなる」という過程がわかりますよね。その上で脳の活動の変化を促すトレーニングを行えば、症状の改善に役立つはずです。こうした治療方法を「ニューロフィードバック」といいます。パーキンソン病なんかでもそうですが、身体の動きが悪いときと、良いときとで脳の状態は変化するものです。その変化を捉え、脳を良い方向へと変化させれば、パーキンソン病に限らず、脊椎損傷の患者さん、脳卒中後の患者さん、認知症の患者さんなどを治療できるはずです。脳の分野は、コンピュータの進歩とともに解析スピードが速まり急成長中です。昨今だとAIの登場も重なり、成長がますます加速しています。ちなみにAIを追うのではなく、AIを引っ張るのが我々のスタンス。AIを利用する側ではなく、脳の解析データによってより人の脳に近いAIを作る側です。脳の活動内容や処理過程をAIに反映すればするほど、より高い精度で回答するAIになるはずです。こういう言い方をすると語弊がありますが、やっぱり「脳=その人」だと思っています。脳が一番偉いわけではありませんが、脳は個人そのもの。脳の移植はありません。そういった意味でも、この分野に対する興味は尽きないのですよね。Haruhiko Kishima2017年より、大阪大学大学院医学系研究科 脳神経外科学 教授。脳の活動と機能を解明し、さまざまな手法を用いて臨床応用を目指す。2016年、てんかんの患者の脳波を測定し、発作時には特定の脳波が関連して増強することを世界で初めて解明。てんかんの診断や治療への応用が期待されている。脳の処理過程を、治療やAIの開発に役立てる。

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