DOEFF_vol3
10/24

2030年にはこうなってる?細胞同士が情報をやり取りする仕組みが明らかになる。その成果をもとに、がんを引き起こすタンパク質を特定可能に。それをターゲットにした治療薬が処方される。私たちの研究対象は「細胞のシグナル伝達システム」です。簡単に言うと、細胞同士や細胞内での情報伝達のメカニズムを研究しています。人間を構成する60兆個ともいわれる細胞は、コミュニケーションを取ることで、バランスを保っています。脈拍、体温、血圧、血糖値などの数値がほぼ一定値を保っていられるのも、細胞内外のコミュニケーションがあってこそ。私たちの身体の「形」を決めているのも細胞です。あらゆる臓器は、細胞がバランス良く増殖と分化、死滅を繰り返すことで、あるべき形状と機能を保っています。私たちが特に注目するのが、このメカニズムです。最終的には、細胞の増殖と分化、死滅のプロセスを再現して、臓器を創出することが生命科学研究の大きな目標ですが、これはまだまだ先の話です。ただし、研究の過程でさまざまな新事実も発見されます。例えば、細胞の形作りを制御するタンパク質「CKAP4」と、がんとの関係です。すい臓がんや肺がんを患う人の体内では、CKAP4が細胞膜上に異常に発現して血中にも放出されます。このタンパク質が細胞の過剰な増殖、つまりがんのトリガーになっているようです。それなら、CKAP4の働きを阻止すれば、がんを抑え込めるのではないか。このアイデアをもとに、新薬の開発を進めています。注意しておきたいのは、どのタンパク質ががんのトリガーになるかは、人や臓器によって異なるということです。CKAP4はたくさんのトリガーのうちのひとつに過ぎません。しかし、研究が進めば、さらに多くのトリガーが発見されるはず。検査技術も進歩して、わずかな血液から、その人のがんの原因になるタンパク質を特定できるようになるでしょう。そうなれば、がんはこれまで以上に治療可能な病気になります。私たちの研究が、そんな未来の礎となることを願っています。Akira Kikuchi2009年より大阪大学大学院医学系研究科 分子病態生化学 教授。細胞と細胞が情報をやり取りしながら、身体の恒常性を保つ仕組みを研究する。細胞同士の正常な情報伝達の仕組みを解き明かすことは、さまざまな病気のメカニズムを解き明かすことにつながる。この分野の知見が、創薬や再生医療といった研究の基礎となる。トリガーを特定すれば最適な治療薬も開発できる。菊池 章大阪大学 大学院医学系研究科生化学・分子生物学講座 分子病態生化学 教授032030prospective view細胞の働きを解明することで、がんのトリガーを特定する。08

元のページ  ../index.html#10

このブックを見る