DOEFF_vol3
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DOEFF Vol. 0311Kazuto Kato2012年より大阪大学大学院医学系研究科 医の倫理と公共政策学 教授。1989年、理学博士(京都大学)を取得後に渡英。Cambridge大学でアフリカツメガエルの筋肉形成の仕組みを研究。帰国後は、科学と社会の接点に関する分野へと転身。「科学や医療の現場と関わりながら研究を進めていくこと」をモットーに、科学研究や先端医療の成果を、いかに社会に接続するかを研究する。なのが、患者さんをはじめとした「非・専門家」との連携です。患者さんは自らの症状を誰よりも詳しく把握しています。彼らは自分自身の病気の「専門家」。そう捉えるべきです。患者さんを巻き込み、ときには患者さんの方から研究テーマを提案してもらう。いうなれば医師(研究者)と患者がひとつになって研究を設計していくのです。それによって今までにない視点から研究が進みます。ちなみに、欧米ではもはや当たり前の営みで、患者グループが自分たちで血液のストックを集めて研究を促したケースもあれば、Webサイト上で自分たちの病に関するアンケートを実施して、膨大な症例データベースを構築したケースもあります。私はこういった取り組みを、日本にも根付かせたい。現在、私たちが進めているプロジェクトでは、遺伝性血管性浮腫の患者さんたちにアンケートを実施するWebサイトを設けています。遺伝性血管性浮腫とは、顔や手など全身の至るところに突然「浮腫(ふしゅ)」ができる遺伝性の病で、治療を受けている患者さんの数が全国に数百人と少ないことから、研究に十分な症例が集まらないことが課題でした。そこでWebサイト上で症例を収集することにしたのです。このプロジェクトでは、アンケート項目の作成段階から患者さんたちに主体的に関わっていただいています。こうした生きたデータが蓄積されることで、医学の進歩はさらに加速するでしょう。2030年には、患者さんと研究者、臨床医、看護師などを結ぶネットワークが、世界規模で広がっていくのではないでしょうか。特に、症例数の少ない疾患では、こうした取り組みが不可欠です。通信技術のさらなる発達によって、国外とのリモート会議も容易になるはずですし、自動翻訳の技術も発展するはず。誰もが自分の言葉で議論に参加できるようになるでしょう。医師と患者さんが対等に議論することが当たり前になれば、普段の診療でもお互いにフラットな関係でコミュニケーションできるメリットもあります。国境や立場の違いといった壁を乗り越え、あらゆる人が一丸となって医学の進むべき道を決めていく。あなたの声が、医学の進歩を支える時代がやってきます。医学の研究を加速させる仕組みを作るために。

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