DOEFF_vol3
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14雑誌『Science』に掲載されたこの論文のおかげで、晴れて本庶研を「卒業」できたわけです。随分とキツイ思いもしましたが、本庶研に入ったことは、僕の人生で最良の選択だったと思います。「研究者の帝王学」とでも言うのでしょうか。「一流とはかくあるべし」という理想像を本庶先生の姿から学びました。ずっと血液学を研究してきましたが、阪大の教授になった頃から新たな研究に取り組み始めました。きっかけは、今は生命誌研究館におられる西川伸一先生の「教授になったら違うテーマも研究せなあかんで」という一言です。その結果、たどり着いたのが「エピジェネティクス」でした。と言っても、ほとんどの人には「何のこっちゃ」という感じでしょう。まあ、欄外のコラムで説明しますので、気が向いたら読んでみてください。いずれにしても、40代という研究者としての能力がピークの時期に新しいテーマに取り組めたことは幸運でした。こうやって振り返ると、僕は本当に運が良かった必要なのは努力よりもかわいげです。同じ遺伝子から、異なる形質が現れるわけ。君は純粋に医学のことを面白がれるだろうか?同じ株なのにいろいろな模様入りの朝顔が咲くのはなぜか。働き蜂と女王蜂を分けるものは何か。三毛猫はどうしてメスだけなのか。なぜ同じ遺伝子を持った双子が、異なる病歴を辿ることがあるのか。こうした問いに答えるのが「エピジェネティクス」です。エピジェネティクスとは、「DNAの配列変化によらない遺伝子発現制御機構」と定義される学問分野です。ひとことでいうと、生き物の身体のなかで、遺伝子にさらになんらかの情報が「上書き」されていく現象です。わかりやすいように、たくさんの文章が書かれている本に例えてみましょう。それぞれの文章を遺伝子とすると、エピジェネティックスとは、本に貼られた付箋や、伏せ字のようなものです。付箋や伏せ字の位置が変わり、同じ本であっても読み取る文章が変化し、異なる物語をひきだすことができます。このようにして遺伝子の発現を制御するのがエピジェネティクスです。さまざまな生命現象や、病気の発症にも関与していることがわかっており、これからどんどん研究が進展していくはずです。仲野先生、エピジェネティクスって何ですか?病歴が異なる双子女王蜂と働き蜂同じ株なのに模様の違う朝顔

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