DOEFF_vol4
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2050年にはこうなってる?08Toshihide Yamashita2009年より大阪大学大学院医学系研究科 分子神経科学 教授。元々は神経細胞の受容体のひとつである「p75」に関する研究に取り組んでいたが、その過程でp75が神経の阻害するタンパク質の一種であることを発見。これをきっかけに神経ネットワークの再生を目指す研究に着手し、2005年には神経再生の分野の研究者に与えられる米国のアメリテック賞を日本人として初めて受賞した。中枢神経の自己再生を促す治療薬が開発されている。脳梗塞や脊椎損傷などで重い障害を負っても、薬を飲むだけで日常生活ができるまでに回復する。私たちの最大の目標は、あらゆる神経系の病気を克服すること。脊椎損傷、脳血管障害、アルツハイマー病。神経系の疾患は数多くありますが、共通の問題は何らかの原因で神経ネットワークが損なわれてしまうことです。その結果、手足のマヒや言語障害、認知機能の低下といった症状が現れます。これらを根本的に解決するには、傷ついた神経ネットワークを修復しなければなりません。神経のうち、脊髄から手足の先まで伸びる末梢神経にはある程度の自己再生能力が備わっていますが、中枢神経においては、神経は一度傷つくと再生されません。脳と脊髄、視神経からなる神経の再生を阻害するタンパク質が分泌されるためです。そこで私たちは、これらタンパク質のなかでも特に強い作用を持つ「RGM」の働きをブロックする中和抗体を開発しました。RGMを抑え込めれば、中枢神経も末梢神経のように自然に再生するはずだと考えたのです。実際に、脊椎損傷で手足がマヒした猿にRGM中和抗体を投与したところ、運動機能に大きな改善が見られました。2019年からは、脊椎損傷を始め、いくつかの神経疾患の患者さんを対象に治験をスタートします。実用化までの目標は4年以内。RGM中和抗体には免疫を抑制する作用もあるため、免疫の暴走によって引き起こされる視神経脊髄炎や多発性硬化症といった神経難病の治療薬としても応用が期待されています。将来的には、アルツハイマー病などによる脳の神経細胞の損傷を修復する薬も開発されるでしょう。病気や外傷などの原因を問わず、神経に由来するあらゆる障害を薬で治せるようになれば最高です。歩くことも困難なほどの重い障害を負った患者さんが、薬の投与だけで身体の自由を取り戻し、スポーツさえ楽しめるようになる。2050年には、そんな光景が当たり前のものとなります。あらゆる神経疾患を根本的に治療する。山下俊英大阪大学 大学院医学系研究科解剖学講座 分子神経科学 教授傷ついた神経を、薬で再生する。08

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