DOEFF_vol4
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時間[ 超高齢者心不全治療: 目指す目標 ]超高齢者心不全治療目標幸せを最大化する治療従来の心不全治療目標「予後」を延長する治療死活動量14しながら、必死で実験のテクニックを学びました。ベイラー医科大学に戻るとすぐに実験の再現に取り掛かりましたが、初めはうまくいかず、何度もマウスの心臓を止めてしまったものです。周囲にはランゲンドルフ法のノウハウを持った医師がいなかったため、相談もできません。それでも何百回と試行錯誤を繰り返し、一週間で成功へと漕ぎつけました。実験環境をイチから整え、学術的に意味のあるデータを集めることがどれほど大変なのか、痛感したできごとです。ほかにもアメリカで学んだことはたくさんありますが、何よりの収穫は日本の医療制度をローカルなものと捉える視点が身についたことです。例えば、全国どこでも救急車で行けるところに病院がある日本と、病院までヘリコプターで向かわなければならないテキサスとでは、救急医療に求められるものは異なります。日本の医療制度だけを踏まえた研究ではなく、世界中のどこででも通用する普遍的な研究こそが、より多くの患者さんを救う。そう考えるきっかけになりました。この思いは教授になった今も変わっていません。私が循環器内科の教授に就任した際に掲げたキャッチフレーズは「大阪発の新しい医療を世界の患者さんに届ける」です。「新しい医療」のなかには再生医療や心臓移植など、大阪大学が誇る最先端医療も含まれますが、決してそれだけではありません。今すでにあるツールを有効利用して、患者さんの治療に役立つ技術を確立することも「新しい医療」のひとつです。具体的には心電図やエコー、ラジオアイソトープといった一般的な検査機器を使って、より効果的な診断を下せないか研究しています。特に注力しているのが、心臓の肥大とともに心機能が低下し、最終的には心臓移植しか手の打ちようがなくなってしまう拡張型心筋症の診断です。心臓移植に実績のある大阪大学には、この病気の患者さんが全国から集まります。その膨大なカルテを分析すれば、心電図やエコーから病の兆候を早期発見できるようになるのではないか。そう考えて研究を進めています。ごくありふれたツールを使った技術は、世界中の医師が即座に採用できることがメリット。僕は研究チームのメンバーに「他国の研修医が明日にでも使える論文を書こう」と声をかけています。要は世界中の医師たちが、一読して「これは役に立ちそうだ。早速使ってみよう」と思える論文を出さなければならないということです。それこそが本当の意味で世界に届く研究だと考えています。アクティブな人生をサポートする患者さん一人ひとりの幸せをサポートする治療を提供したい。そのためにはまず、幸せとは何かを定義しなくてはなりません。多くの人に共通する幸せの指標になると睨んでいるのが「活動量」です。これは自分の足で歩く、人と会話する、仕事をするといった人間のあらゆる活動を、IoT技術を使って測定、数値化したもの。この活動量を縦軸に、横軸に寿命を設定したものが下のグラフです。このなかで色付けされた部分の面積=生涯を通じた活動量を最大化する治療こそが、患者さんを幸せにする治療だと考えています。例えば、入退院を繰り返すケースが多い心不全の場合なら、退院期間を伸ばして活動量を増大させる治療の確立が、今後ますます重要になるでしょう。より多くの患者さんの幸せを目指して、さらに研究を進めたいですね。心臓内科医の考える「幸せ」とは?大阪大学発の医療を世界へと届ける。Column

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