DOEFF_vol4
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2050年にはこうなってる?05DOEFF Vol. 0430代での神経変性疾患診断が常識になる。検査によって神経変性疾患が早期発見された場合は、RNAを制御する治療薬で発症を未然に防ぐ。医学の進歩によって、がんや糖尿病をはじめとしたさまざまな病気に、遺伝子の異常が関わっていることが明らかになりました。一方で遺伝的な要因では説明がつかない病気もあります。アルツハイマー病などの神経変性疾患はその代表で、患者さんの遺伝子に異常が見つからないことがほとんどです。そこで私たちはRNAに着目しました。かつてRNAの役割は、DNAに刻まれた遺伝情報に従ってタンパク質を生産することだと考えられてきました。RNAはDNAを忠実にコピーしただけの中間生成物に過ぎないとされてきたのです。ところが近年の研究によって、RNAがDNAの情報を書き換え、必要に応じてタンパク質の生産効率や種類を調整していることが明らかになりました。「RNA修飾」と呼ばれるこのプロセスに異常が起きると、本来あるべきではないタンパク質が作られてしまいます。神経変性疾患の患者さんの体内でも、同じことが起きているようです。RNAの異常によって神経を傷つけるタンパク質が作られ、その結果、神経が死滅してしまう。これが神経変性疾患の発症メカニズムだと睨んでいます。RNAについての研究は、ここ10年ほどで飛躍的に進歩しました。2050年にはRNAの働きを制御することで神経変性疾患の進行を抑える薬が実用化しているでしょう。また現在、ノーベル賞受賞者の田中耕一さんを中心に、血液検査でアルツハイマー病を早期発見する研究が進んでいますが、今後は検査自体ももっと手軽になっていくはず。2050年には、誰もが30代で神経変性疾患の検診を受ける時代が訪れていてもおかしくありません。早期診断で発病の確率が高いとわかれば、RNAを制御する治療薬によって発症を抑え込む。多くの人を苦しめる神経変性疾患の克服は、夢物語ではなくなっているはずです。Yukio Kawahara2014年より大阪大学大学院医学系研究科 神経遺伝子学 教授。大学院時代より一貫して神経変性疾患の病態解明と治療方法の確立に従事してきた。これらの疾患の多くにRNAの異常が深く関与していることからRNA生物学の研究にも着手。今後の研究目標はRNAを切り口に、神経疾患だけでなく循環器、免疫などの幅広い疾患の発症メカニズムを明らかにし、治療へと結びつけること。予防の鍵は、RNAと早期発見。河原 行郎大阪大学 大学院医学系研究科ゲノム生物学講座 神経遺伝子学 教授神経変性疾患を完全に予防できる。

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