DOEFF_vol4
9/24

DOEFF Vol. 0407Kohji Nishida2010年より大阪大学大学院医学系研究科 眼科学 教授。角膜疾患の病態解明と再生医療による角膜移植をテーマに研究に取り組んできた。患者の口腔内の細胞から培養した角膜シートを用いた角膜再生医療法を開発し、世界に先駆けて臨床への応用を果たす。2016年には、世界で初めてiPS細胞から「機能的な角膜組織」を作製することに成功。同技術の実用化に向けて、臨床研究を進めている。角膜移植をはじめ、眼の健康を守るために研究を進めていく一方で、眼から全身の健康へアプローチする研究にも取り組んでいきます。たとえば、眼から脳を活性化する研究です。眼と脳には密接な結びつきがあることが明らかになってきました。自閉症スペクトラムの患者さんの多くは、視覚にも異常が出やすいことがわかっています。白内障の手術によって、認知症の症状が緩和されたという報告もあります。それならば、眼から何らかの刺激を与えることで、自閉症や認知症を予防できるのではないか。アイデア段階ですが、脳科学の専門家と協力して取り組みたいテーマです。眼を診ることで、全身の健康状態を把握する新たな診断技術も確立したいですね。眼は情報の宝庫です。眼の血管の状態は、全身の血管の状態を反映していると言われています。また脳の神経の変化が、網膜に表れることもわかってきました。検査技術の向上も著しい。光干渉断層計という機器が開発され、光をあてるだけで眼底の血管の様子を映像化できるようになったことで、眼から読み取れる情報量は格段に増えました。これらの情報を、ビッグデータとAI技術を用いて読み解いていきたい。すでに眼底の映像をAIで分析すれば、性別、年齢、血圧値はもちろん、心筋梗塞や脳梗塞を発症する確率さえ予測できるようになっています。最近では、糖尿病を発症しているか否かをAIが自動診断する眼底カメラも開発されました。いずれは眼の検査をするだけで、アルツハイマー病や自閉症など脳に関わる病気の早期発見が可能になるでしょう。2050年には検査のために病院を訪れる必要すらなくなるかもしれません。患者さん自らが小型の端末で目を撮影するだけで、AIが即座に全身の健康状態を自動診断してくれる。シンギュラリティを超えて人間を上回る知性を備えたAIならば、これからどの程度の確率で、どのような病気にかかるかも容易に予測できるはずです。そうなれば、あらゆる病気を発症前から確実に治療できるようになります。眼の健康を守ること。眼から全身の健康を守ること。この2つを両輪として、これからも自由な発想で眼の研究を進めていきたいと思っています。ビッグデータとAIが眼科の役割を拡張する。眼は全身を映す鏡です

元のページ  ../index.html#9

このブックを見る