DOEFF vol5
8/24

062050年にはこうなってる?脳の高次機能を再現した「こころ」を持つAIが生まれる。そのAIを分析することで、人間の「こころ」や認知症の仕組みが完全に解明される。私たちは「体験できる脳科学」を旗印に、身の回りの素朴な疑問を掘り下げることで、脳のメカニズムを探ってきました。例えば、脳はどうやって視界を安定させているのかという研究です。実は私たちの目は1秒に約3回、高速で動いています。そのため網膜に映し出される像も、すさまじい勢いで揺れ動いています。それにも関わらず、私たちはそのブレを認識していません。なぜ、目が動いても視界はブレないのでしょう? この問いは1000年以上前からデカルトをはじめとした多くの著名な学者を悩ませてきました。有力なのは「ブレた映像が脳へ伝わるのを遮断する仕組みがある」という説です。しかし、これが正しいとしても説明しきれないことがあります。「遮断する前の網膜像」と「遮断した後の網膜像」の間にあるズレを、どのようにつなぎ合わせているのかという問題です。結論から言うと、脳は「背景」を基準にしてふたつの網膜像を重ね合わせることで、ズレを補正しています。私たちは実験によって脳が背景を使っていることを証明しました。さらに脳の血流を調べることで、脳の内側の「楔けつぜん前部ぶ」が背景を基準にした空間認識を司っていることも突き止めました。現在は、サルの楔前部のニューロンの活動を調べていますが、予想通り背景を司るニューロンの存在が明らかになりつつあります。ヒトの脳の仕組みを「再現」する。北澤 茂大阪大学 大学院医学系研究科生理学講座 脳生理学 教授

元のページ  ../index.html#8

このブックを見る