DOEFF vol6
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2050年にはこうなってる?08Kazuhiko Ogawa2011年より大阪大学大学院医学系研究科 放射線治療学 教授。同附属病院放射線治療科の診療科長も兼任し、サイバーナイフ(高精度ロボットアームに放射線照射装置を組み合わせた医療機器)による定位放射線治療や重粒子線治療といった最先端技術を駆使して「切らずに治す」がん治療を実践し、多くの患者を救ってきた。放射線の照射部位などをAIが自動で診断。治療の精度が向上し、副作用が減ることで、多くのがんは仕事をしたり、学校に通いながら治せるようになる。放射線によるがん治療が本格化したのは、ここ20年ほどのことです。それまで放射線といえば、治療ではなく診断のために用いられることが主でした。変化が訪れたのは2000年代。コンピューターの性能が飛躍的に向上したことで、健常な組織にはほとんど影響を与えず、病変箇所にピンポイントで放射線を照射できる高精度放射線治療が実用化されたのです。患者さんの身体への負担が少なく、がんを切らずに治せる放射線治療は、外科治療、化学療法と並ぶ「がんの三大療法」のひとつに数えられるほどメジャーになりました。近年では、腫瘍のかたちに沿って放射線を照射することでさらに精度を高める強度変調放射線治療や、これまでの放射線治療では効き目の薄かった肉腫(筋肉や神経、骨などに発生する悪性腫瘍)にも効果的な重粒子線治療といった、新しい治療法も続々と登場しました。私たちの研究グループが最も力を注いでいるのは、免疫医療とのコラボレーションです。免疫に作用する薬を投与した上で、放射線を照射することによって、転移先など非照射部のがん組織も破壊する「abscopal効果」を人為的に引き起こす技術の開発を進めています。今後はAIの活用も進めます。すでに細胞の画像をもとに、放射線治療の効果があるのかどうかをAIが自動診断できるようになっています。2050年には、どこにどれだけの放射線を照射すれば どの程度の効果があるのかを、AIが画像から正確に診断するようになるでしょう。治療の精度が向上すれば、副作用はもっと減らせます。そうなれば、検査に来たその日のうちにAIが治療方針を提示し、あとは定期的に外来で放射線を照射するだけで、がんを治療できるようになるはずです。がんから命を守るだけではなく、患者さんの日常生活も守る。そんな治療の実現をめざします。AIが治療の精度をさらに高める。小川 和彦大阪大学 大学院医学系研究科放射線統合医学講座 放射線治療学 教授がん治療はがん治療は日常のワンシーンに。日常のワンシーンに。

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