DOEFF vol6
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12高校生の頃は医師よりも建築家や小説家に憧れていました。にもかかわらず医学部へと進んだのは、「医学部でなければ学費は出さない」と父に半ば強制されたからです。そんなことだから入学後は勉学に身が入らず、遊んでばかり。我ながらよく留年せずに卒業できたと思います。本当の意味で医学を学び始めたといえるのは、医師免許の取得から2年後、研修医として臨床の現場に立ってからです。正直それまでは「医学の勉強なんて、試験で合格点を取れればそれでいい」と考えていました。けれど実際の医療の現場には合格点どころか、満点も存在しなかった。あるのは「自分の勉強が足りなければ、患者さんが命を落としかねない」という現実だけです。例えば、私の専門である食道がんでいうと、当時はどんなに頑張っても10人に1人は手術後に亡くなっていました。それならせめて「全力を尽くした」人の死という現実が私を変えた。医学の世界に満点は存在しない。土岐 祐一郎DOKI YUICHIRO大阪大学 大学院医学系研究科消化器外科学Ⅱ 教授

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