DOEFF vol6
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脳脳下垂体胃成長ホルモングレリン食欲14術後の体重確保がとても難しい。手術が成功しても、体重がどんどん減ってしまい、高齢者の方はそれが原因で寝たきりになってしまうことも珍しくありません。栄養状態が悪くなると免疫力が低下して、がん再発の一因にもなります。こうした問題を解決する有効打になると睨んでいるのが、胃から分泌され、脳へと働きかけることで食欲と成長ホルモンの分泌を増進する「グレリン」というホルモンです。私たちは世界に先駆けて胃がん胃全摘術後の患者さんにグレリンを投与する臨床試験を実施し、食事摂取量や食欲、体重の増加といったポジティブな結果を得ました。さらに食道がん術後の患者さんへの投与では、食欲と体重の増加だけではなく、全身の炎症反応を抑えられることも明らかに。今後はさまざまな栄養剤などと上手に組み合わせ、グレリンのさらなる可能性を引き出すことで、手術後の栄養状態を良好に保つ術を確立したいと思っています。私たちが培ったノウハウは、より一般的な高齢者医療にも生かせるでしょう。手術後ほど急激では未知の領域へ  踏み込む勇気を。「胃」は食欲の源です大腸や小腸を切除しても食欲が衰えないのに、胃を切除すると食欲がガクンと衰える。私たちの食欲は胃が司っているといっても過言ではありません。この事実は古くから知られていましたが理由は長年の謎でした。それが解き明かされたのは1999年。ふたりの日本人医師が胃から分泌される「グレリン」というホルモンを発見し、これが脳へと働きかけることで、脳から「何かを食べろ!」と命令が下されることが明らかになったのです。これが食欲のメカニズム。グレリンの90%以上は胃から分泌されるため、胃を切除すると途端に食欲がなくなるというわけです。とはいえ、現在となっては化学合成されたグレリンを投与することで食欲を回復させる研究が進んでいます。大病を患い、胃を大きく切除しても元気に食事ができる。間もなくそんな時代が訪れるはずです。ご飯がおいしいのは「胃」のおかげ?Column胃から分泌されたグレリンは脳の視床下部に働きかけ、食欲を増進。さらに脳下垂体に作用し、成長ホルモンの分泌も促します。

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