DOEFF vol6
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DOEFF Vol. 0607Hideki Mochizuki2011年より大阪大学大学院医学系研究科 神経内科学 教授。パーキンソン病の発症メカニズムの解明と根本的な治療法の確立に取り組む。遺伝子治療の応用にも積極的で、2012年からは大阪大学医学部附属病院遺伝子診療部部長も務める。同病院では脳卒中センターセンター長、難病医療推進センター副センター長も兼任する。このタンパク質が通常よりも多く溜まっていることがわかったのです。異常増殖したα-シヌクレインが、神経細胞の減少の原因ではないか。私たちはこの仮説に基づいてα-シヌクレインを除去する薬の開発に取り組んでいます。2019年には、タンパク質が作られる途中でできる「リボ核酸(RNA)」に作用し、タンパク質の合成を抑える「核酸医薬」の候補となる物質を薬学部と共同で開発。この物質をパーキンソン病のマウスに投与したところ、手足の動きが目に見えて改善しました。今後も実用化に向けて研究を進めていくつもりです。とはいえ核酸医薬も、神経細胞が減少してから投与するのでは意味がありません。α-シヌクレインが増加し始めた時点で早急に対処しなければ、手遅れになってしまいます。そのため、検査方法の開発は急務です。私たちはごく少量の髄液から短時間でα-シヌクレインを検出することを可能にしました。現在は少量の血液からの検出を目指しています。早期診断と核酸医薬によって、誰ひとりパーキンソン病にかからない未来をつくることが2050年までの目標です。もうひとつ積極的に進めていきたいのが、脳や神経の仕組みそのものの解明です。それによって脳の活動をコントロールできるようになれば、これまで手の施しようのなかった病気も治療できるようになります。その代表が「イップス」です。アスリートやミュージシャンなどが、今まで当たり前にできた動作が急にできなくなってしまうイップスは、これまで精神的な病だとされてきました。しかし、最新の研究では特定の動作に伴い、脳の特定の部位が過剰な神経活動を見せることが明らかになりました。その部位を外部から磁気や超音波で刺激することで、苦痛を伴わず症状を改善できることもわかっています。2050年までには、神経活動やタンパク質の蓄積度合いなど、あらゆる脳の動きをリアルタイムで計測できるようになっていれば理想的ですね。脳内の異常を即座に診断し、それに応じて投薬や磁気、超音波による治療を行うことで、脳や神経に由来するあらゆる疾患を治療できるようになる。そんな未来を実現することが、私たち神経内科医の夢です。パーキンソン病もイップスも克服できる。

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