DOEFF vol7
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DOEFF Vol. 0715です。この細胞の研究によって、長年謎であった、造血幹細胞の維持に欠かせない「ニッチ」と呼ばれる特別な環境の正体が明らかになりました。実は2000年代には、「ニッチを作っているのは骨芽細胞」という論文がアメリカで発表され、国内外における定説となっていました。けれど私は、その論文に書かれた根拠がどうしても納得できなかった。だからこそ自分たちのデータを信じて粘り強く検証を続けました。ここで諦めていたら、CAR細胞は発見できなかったでしょう。検証を繰り返したおかげで、CAR細胞の機能を支えるFoxc1とEbf3という分子も特定できました。自説が決して揺るがないレベルまで、徹底的に証明を続ける。これこそが、研究者にとって大切な姿勢だと痛感しました。2016年からは縁があって、教授として大阪大学医学部へと戻ってくることができました。引き続医学の屋台骨を支える基礎研究をともに。き血液や免疫に関する研究を進めていくとともに、これからは後進の育成も私が担うべき大切な役割だと考えています。岸本先生をはじめとする先達から学んだものを、今度は私が学生たちにバトンタッチしていかなければなりません。なかでもやはり基礎研究に従事し、医学の基礎を着実に固めていけるような若者を育てていきたい。基礎研究というのは地道な仕事です。私のCXCL12に関する研究成果にしても、大きな痛みを伴う骨髄穿刺をせずに骨髄液を抽出できる「モゾビル」という医薬品の開発などに生かされてはいるものの、まだまだ大々的に臨床の現場で応用されているわけではありません。それでも研究者が「今すぐ役立つ研究」にばかり取り組むようになってしまったら、医学の世界でイノベーションは生まれなくなってしまうでしょう。今すぐに脚光を浴びることがなくても、50年後、100年後の医学のために、人体に関する揺るぎない知見をひとつでも多く見出していく。そうした営みに意義を感じられる人にとって基礎研究という仕事は、この上なくやり甲斐に満ちたものになるはずです。1987・名古屋大学医学部卒業・大阪大学医学部附属病院での研修 に従事1993・医学博士︵大阪大学︶1998・日本免疫学会賞 受賞・大阪府立母子保健総合医療センター 研究所 免疫部門 部長2002・京都大学再生医科学研究所 生体システム制御学分野 教授2014・武田医学賞 受賞2018・大阪大学 大学院生命機能研究科/ 大学院医学系研究科 教授2019・日本学士院賞 受賞Biography

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