DOEFF vol8
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糖尿病の根治も夢ではない。原田 彰宏大阪大学大学院医学系研究科解剖学講座 細胞生物学 教授細胞には「極性」、いわゆる「向き」があります。pical面代表的なのは腸の上皮細胞です。内側のaには細かい毛があり、そこで取り込んだ栄養が反asolateral面を通して血管に送られ、吸対側のb収されます。神経細胞もわかりやすい例でしょう。刺激を送る側の軸索と、受け取る側の樹状突起に 分かれ、神経が伝達されます。極性があるから、細胞はその役割を果たすことができるのです。ではなぜ、どのように細胞の「向き」が決まるのか。その仕組みは実はよくわかっていません。さまざまなタンパク質がしかるべき目的地へ運ばれて極性が作られることは以前から指摘されていました。その「極性輸送」に関与しているのが、Rab8というタンパク質です。そこで私は、小腸でRab8を欠損したノックアウトマウスを調べました。すると、食べることはできるのですが、栄養を小腸で吸収できず、やがて死んでしまったのです。同じ現象は、人でも微絨毛萎縮症という遺伝性の難バソラテラル糖尿病患者にSNAP23の阻害剤を腹部から注入して治療。微絨毛萎縮症をはじめとするさまざまな難病にもこの方法が応用されるかもしれない。アピカル2009年より大阪大学大学院医学系研究科 細胞生物学 教授。細胞の「向き」である極性に着目し、その形成と維持に欠かせない極性輸送のメカニズム解明を取り組む。ノックアウトマウスを用いた研究により、Rab8やSNAP23といった分子が重要な役割を果たしていることを突き止めた。再生医療への応用可能性も指摘されている。病で見られます。さらに、Rab8と結合して極性をコントロールする特別なタンパク質を突き止めました。それをノックアウトしたマウスは、赤血球が正常値の1/5しかなく、重篤な貧血状態でした。そもそも赤血球は、赤芽球と呼ばれる前段階で脱核という現象が起きて形成されます。脱核が起こる理由は不明ですが、私は極性の働きによるものだと考えています。このメカニズムが解明されれば、人工的に赤血球を増産することも夢ではありません。このほかにも、極性輸送に関わっているSNAP23を阻害することで、血糖値を下げるインスリンの分泌が増えることを発見しました。2050年には、極性をコントロールすることで、糖尿病を根治する薬が登場するかもしれません。極性は難病への深い関わりが想定されますから、将来的にその多くが治療可能となることを期待しています。08Akihiro Harada2050年にはこうなってる?難病治療のカギを握る難病治療のカギを握る細胞の「向き」。細胞の「向き」。

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