DOEFF vol8
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死のサインを事前にキャッチ。自殺は、自らを殺すことです。その衝動を他人に向けたら殺人になります。自殺者がなぜ死を選ぶ発想に至ったのかを解明できれば、他人を殺そうとする行動の要因もわかり、予防できる何かが見つかるのではないか。死因のメカニズムが解明できれば、息や血液からその危機が事前にキャッチできるかもしれません。それで死に向かうベクトルを変えてしまえばいいのです。究極的には、突然死も自殺も殺人もワクチンで予防できる。そんな未来を妄想することもあります。法医学者は、全身を探索します。臓器別ではなく、全人的な医療なのです。ゲノムの変異を含め、その人の全情報を、スーパーコンピュータなどの先端技術と人間の英知で解析できるといい。50年後、100年後の医学者が過去のデータに困らないように、なんらかのアーカイブを残すのも私の使命です。*検案:医師が死体を検査して、死因や死亡推定時刻などを判断すること。ちょっとしたシグナルを捉え、服薬や注射で未然に死を防ぐのも決して夢ではない。新型コロナのmRNAワクチンのように「設計図」を注入する発想もあり得るだろう。歴や年齢のハンディキャップもないだろうと。京都大の大学院時代は司法解剖に携わったほか、アルコールの研究に取り組みました。アルコール性肝障害の病態モデルの解析などです。実はアルコールは、法医学に密接な関わりがあります。飲酒運転の事故や酔っ払いの暴行事件を思い出してみてください。重要なのはアルコールの血中濃度です。時間経過はどのように濃度に影響するのか。体重との相関はどうなのか。過去に行われた動物実験のデータをもとに、モデル式をたくさん作りました。その後、着任した札幌医科大学では自分の教室を「法医学・アルコール医学」と名付けています。アルコール摂取との関連が指摘される難病の特発性大腿骨頭壊死症について、世界で初めて動物モデルを確立したのも札幌時代です。法医学者として、阪神・淡路大震災と東日本大震災で検案*活動に従事した体験はやはり大きかったと思います。阪神・淡路大震災では、発災3日目に神戸市の長田区に入りました。訪れた体育館14Column医療は、人生を楽しむためにある。使命感に燃えた被災地での活動。ワクチンで殺人を防ぐ?

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