DOEFF vol8
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・大阪府監察医事務所長・大阪大学大学院医学系研究科教授・東日本大震災の検案活動に従事・札幌医科大学医学部教授・ハーバード大学医学部客員研究員・医学博士(京都大学)・阪神・淡路大震災の検案活動に従事・和歌山県立医科大学医学部卒業・京都大学大学院医学研究科博士課程入学では避難している方がご遺体とともに過ごされている。想像を超えるハードな状況でした。手洗いに使うのは雨水。食糧もない。現地にいた5日間で11キロ痩せました。寝る時間もありませんでしたが、大学の実験室では72時間休みなしなんてザラでしたから、なんとかなるものです。アクシデントも起きました。発災5日目に市の職員がごみの収集に来た際、棺が足りなくてやむを得ずご遺体を入れていた段ボールを誤って運んでいってしまったのです。学校の教室よりも大きな収集の山をかき分ける途方もない捜索活動の末、7時間かけてなんとか回収を果たします。やれることはやろうという一心でした。東日本大震災の発災時は、津波が起こり始めている沖のニュース映像を見て、これはまずいと直感しました。スマトラ沖地震の際も現地に行っており、津波の怖さを知っていたからです。なるべく早く東北へ行くべきだと思いました。原発のニュースも深刻さを増す中、放射能の影響を想定して、家族の了解を得られた研究室の有志は私を入れて4人。私の研究室は全員、1人で対応できるのが強みで、1人1日、検案は100体、解剖だったら5体が可能ですから、十分な人数です。技術19911995   があるし、丁寧にやれる。札幌から陸路とフェリーで16時間かけて福島の南三陸町に赴き、2日間ですべてのご遺体を、3日目の石巻市では400体を検案させていただきました。臨床では「病気」に着目します。だけど法医学は「人」ありきなんですね。人それぞれ育った環境は違います。亡くなるときの環境もさまざまです。熱中症もあれば凍死もある。飢餓もあれば虐待もある。では社会として何ができるのか。亡くなった方を見つめ、残された側が幸せに生きていくにはどうしたらいいのかを考えるのが法医学です。不幸な死を医学的に防ぐ。それが私のミッションです。突然、人生が遮断される事態をなくしたい。100%思い描いた通りとはいかないまでも、すべての人がゆとりをもって、人生を楽しくまっとうできるようにしたい。私たちは亡くなった人に生かされているのです。亡くなった人からの贈り物を、今生きている人に還元すること。それが法医学の責務だと考えています。20021519961997201120132014DOEFF Vol. 08Biography不幸な死を、なくしたい。

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