医療を超えた、コミュニケーションの問題を解決する。猪原 秀典ライブコンサートの大音量による難聴を防ぐ薬が登場。加齢性を含めた「聴こえにくさ」の予防・治療ができるようになる。ガンで喉頭を切除すると声は失われます。舌を切除する場合、腹直筋を移植するなどすればある程度は話せるようになりますが、言葉として明瞭ではなく、聴き取りにくいのは否めません。そこで私たちの研究室が構想しているのは、AIの技術を使い、口をパクパクさせるだけであたかも自分の声でスラスラと話せるようなデバイスです。なぜこのような取り組みが必要なのでしょうか。それは医療を超えたコミュニケーションの問題だからです。その点、難聴は象徴的な疾患でしょう。高齢者にとって難聴は認知症を引き起こすリスクファクターといわれています。コミュニケーションが不足し、脳への刺激が減ってしまうからです。現在は、まず補聴器を使用し、それでも聴こえが改善しない場合は人工内耳を使います。すでに実用化されていて、「最も成功した人工臓器」と称されるほどです。ただ、耳の奥に埋め込むだけでなく、頭部に機器を装着する必要があり、わずら2009年より大阪大学大学院医学系研究科 耳鼻咽喉科・頭頸部外科学 教授。咀嚼や発声、聴覚、味覚など、QOLの維持に欠かせない機能が集中する頭頸部領域のすべてが研究対象。自身の研究室ではめまい平衡、難聴、鼻・副鼻腔、頭頸部腫瘍、音声・嚥下の専門グループを擁する。2021年、日本頭頸部外科学会の理事長を兼務。わしいのも確かです。将来は完全埋込型の人工内耳が登場するでしょう。難聴の度合いが進行したら、Wi-Fiにつないでプログラムをアップデートするだけでいい。そんな優れものをイメージしています。ただ、突発性難聴に関しては原因を含めまだわかっていないことが多い。内耳は頭骨に囲まれた小さな器官ですから、形態学的、機能的にどのような変化が起こっているのかを観察するのが難しいのです。とはいえ、2050年頃までには、技術革新により内耳の変化をとらえることができ、コンサートの大音量などで生じる騒音性難聴を予防する薬が開発されても不思議ではありません。ヘレン・ケラーは、「目が見えないと、人と物を切り離す。耳が聴こえないと、人と人を切り離す」と言いました。「聴こえなくても仕方ない」とあきらめてしまう人を救う。それが私の使命です。大阪大学大学院医学系研究科脳神経感覚器外科学講座耳鼻咽喉科・頭頸部外科学 教授05Hidenori Inohara2050年にはこうなってる?技術革新で、技術革新で、難聴を克服。難聴を克服。
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