DOEFF vol8
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メタボ健診の進化で予防医学が加速するた。アディポネクチンとT-cひとつのユニットを形成し、細胞表面を覆います。車のワックスをイメージするといいでしょう。雨や風、紫外線をブロックするように、いろんな攻撃因子から細胞を守ってくれるわけです。それにとどまらず、細胞の中にも作用します。細胞にアディポネクチンを与えると、近年「生命を守る伝達物質」として注目されているエクソソームが多く分泌されることがわかりました。アディポネクチンの血中濃度を上げるとエクソソームの量も増えます。それで長生きになる可能性があるのです。さらに、アディポネクチンには別の顔があります。 動脈硬化の原因となるセラミドといった脂質は、人体にとっては「ゴミ」です。それをどんどん掘り起こし、排出してくれることがわかりました。いわば、アディポネクチンは、定期的に来てくれるゴミ収集車みたいなものなのです。こういう研究成果をもとに未来を考えると、健康長寿の道が開けてくるはずです。メタボリックシンドロームの概念は、今では広く世間に定着しました。とにかく「お腹をへこませましょう」と健診での腹囲チェックを法律で定めたわけです。体内のアディポネクチンを増やす方法が開発、確立されれば、肥満や内臓脂肪蓄積に基づくさまざまな疾患が減り、さらに健康長寿に寄与することがカドヘリンadherinが結びついてできるでしょう。メタボ健診は、現状は腹囲を測るだけですから、内臓脂肪を測れているわけではありません。もち ろんCTで測ることはできますし、アディポネクチ ンの血中濃度もたいていの病院で検査できます。ただ、保険診療化されていないので高額なのがネックです。それが解消されれば、効率のいい予防医学がさらに普及するでしょう。2050年には、健診で内臓脂肪やアディポネクチンの値を測った上で、「あなたは今のままだったらどれぐらい生きられますよ」と予想できるようになっているかもしれません。抗肥満薬は次々に登場していますが、肥満の元を断つ発想にまでは至っていません。そもそも肥満は遺伝や環境的な要因がとても大きいのです。個人の責任に帰すのではなく、問題は複合的であることを社会が認識しなければなりません。なるべく長く健康でいられる人が増えれば、国全体の医療費が抑えられる。そういう視点が必要です。私の究極の願いは、「肥満症」という言葉が死語になること。それは決して夢ではないと信じています。大阪大学大学院医学系研究科の病態医科学(病理病態学)、分子制御内科学の教授を経て、2005年より内分泌・代謝内科学教授。共同研究者らと脂肪細胞由来ホルモンのアディポネクチンを発見した。内臓脂肪の蓄積に起因する代謝疾患や内分泌疾患の研究に尽力し、その成果はメタボリックシンドローム概念の普及に結びついている。07Iichiro Shimomura

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