DOEEF vol9
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2050年にはこうなってる?08Keiji Ueda2009年より大阪大学大学院医学系研究科 ウイルス学 教授。医学部卒業後、消化器病の臨床経験がきっかけで肝炎に興味を持ち、ウイルス学を志す。大学院では、酵母からB型肝炎ウイルスワクチンを開発した松原謙一教授に師事。カポジ肉腫関連へルペスにも研究対象を広げ、ウイルスの増殖メカニズムの解明に取り組んでいる。パッチ式の薬剤注入器を1年に1回取り換えるだけ。データはデバイスでチェック。B型肝炎でも安心して日常生活を送れる。この2年ほど、新型コロナの世界的流行により、ウイルスに対する社会の意識が高まっていると感じます。私の研究対象は、同じく人類にとって脅威といえるB型肝炎ウイルス。急速に広がるウイルスではありませんが、いったん感染すると長期にわたって患者さんの人生に深刻な影響を及ぼします。患者数は世界で約3億人。蔓延率の高い地域では、4、50代で亡くなってしまうケースが普通に見られる「風土病」となっています。現時点で、治療の選択肢はインターフェロン治療と核酸アナログ治療の二つしかありません。副作用やコストの面で課題が多いのも事実。私は基礎研究者の立場から、ウイルスが増殖する仕組みに着目しています。新薬の開発に結びつくものを探り当てたい。そういう思いで研究に取り組んでいます。日本では、母子感染を防ぐため、1985年にワクチン接種が制度化されました。ただ、今も100万人ほどのキャリア(感染者)がいます。B型肝炎ウイルスは一度感染すると一生排除できませんから共存の道を探らなければなりません。キャリアの10%程度は肝炎を発症します。急性肝炎なら日常生活に戻るための治療は可能。慢性肝炎になると肝がんのリスクがあり、年1回は検査が必要です。いずれにしても、ワクチンを接種していればパートナーや子どもを設けることは問題ありません。2050年には、特効薬が登場し、B型肝炎の制圧が射程に入っていると思います。薬の摂取スタイルにもイノベーションがあるかもしれません。お腹にパッチを貼り付けるだけで、日々適量の薬が体内に注入されるのも夢ではないでしょう。感染症をすぐに撲滅するのは難しい。それはウイルスが変異するためです。創薬は、日頃の地道な努力が10年後、20年後にようやく結実するもの。新型コロナでは短期間で多くの成果がありました。B型肝炎でもやればできるはずです。安価で効果の高い薬の登場に期待しています。コロナの経験を創薬に活かす︒上田 啓次大阪大学大学院医学系研究科感染症・免疫学講座 ウイルス学 教授B型肝炎でも、B型肝炎でも、人生を楽しめる。人生を楽しめる。

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