DOEEF vol9
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DOEFF Vol. 0911Hiroshi Hibino2021年より大阪大学大学院医学系研究科 統合薬理学 教授。耳鼻咽喉科の臨床現場で難聴の診療にあたった後、基礎研究の道へ。内耳の働きに焦点をあて、難聴の発症メカニズムを探っている。薬物の効き目をリアルタイムで計測するシステムの開発にも注力。医工連携による独自の計測技術を駆使した研究を進めている。それは医学的にも証明されていて、高齢化が進む今、社会の注目を集めているトピックです。難聴とうつの関連も指摘されています。コロナ禍では、人同士の関わりが制限されることによるメンタルへの悪影響が取り沙汰されました。難聴も社会的孤立を引き起こす恐れがあり、うつの要因となり得ます。これらを踏まえると、難聴はまさにタイムリーな話題だといえるでしょう。難聴の克服は、QOLの向上につながります。新たな生きがいの発見や健康寿命の延伸、ひいては心豊かなで幸せな社会の実現に貢献したい。私たち研究者はそれを追い求めているのです。今後は、医療だけでなくヘルスケアが重要になってくると思います。例えば、日常生活の中で聴こえを自動的に守るようなシステムが構築できるといい。有害な音をAIが分析して、それを抑制する「スマート難聴予防システム」というべきものです。2050年には、特別なイヤホンを装着するだけで難聴の予防が可能になるかもしれません。個人で手軽にできることがポイントです。ダイヤモンドの電極を使ったモニタリングシステムの研究にも取り組んでいます。薬が標的とする細胞に着目し、薬の濃度やその効き目をリアルタイムで捉えようとする試みです。この研究の狙いは、局所への「ローカル」な薬の効果を知ることで、臓器全体、あるいは全身への「グローバル」な影響を探ること。そのような「グローカル薬理学」の樹立を目指しています。安全で有効な創薬はもちろん、既存薬の投与法の改善につながる発想です。ある薬が別の病気にも効くか探索することにも役立つでしょう。理想的には、1滴の血液で瞬時に薬の濃度を測定し、治療にフィードバックできるといい。そうなれば、オーダーメイド医療の確立も見えてくるはずです。内耳の研究とは関係ないと思われるかもしれません。しかし、有毛細胞の微小な振動にフォーカスし、そこから難聴や脳のことを考えるのも、いってみれば「グローカル」。私の中で二つの研究はひとつにつながっているのです。臓器の種別を超えて、今後も研究を続けてまいります。﹁グローカル﹂な発想でオーダーメイド医療を確立する︒

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