DOEEF vol9
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2050年にはこうなってる?DOEFF Vol. 0905体内に埋め込んだチップで精神疾患も治療できる時代がやってくる。チップから直接モニターに脳の情報を映して、検診も簡単に。私たちの身体は電気で動いています。脳が機能するのも筋肉が動くのも目が見えるのも、電気信号によるものです。しかし、コンピューターの配線上のように電子が流れているわけではありません。人間の場合、イオン(電解質)の濃度差によって電気信号が発生します。主なイオンは、ナトリウムやカリウムなどミネラルに属する成分。私たちの祖先が進化に伴って海から陸に上がってきたとき、海水から体内に取り込んだとされます。かつての海は今ほどしょっぱくなく、人の体液に近かったのです。身体の機能維持に欠かせない亜鉛や銅といった微量元素も海水由来。人間の体内には太古の海が残っているともいえるでしょう。通常イオンは、細胞膜を貫通するタンパク質の「チャネル」を行き来します。抗不安薬や降圧剤など身近な薬の多くは、このチャネルに作用して、効果を発揮しているのです。今後、タンパク質の分子構造の解析が進めば、より短期間で薬を開発できるようになることも期待されます。リハビリの在り方が大きく変わる可能性もあるでしょう。筋肉を電気信号で刺激する方法は今もありますが、どうすれば効果が上がるかはわかっていません。私は2008年、細胞の電気信号を「色」で認識できる蛍光タンパクを理化学研究所などと共同で開発しました。神経回路の働きを可視化する研究は世界中で行われています。それを受け、リハビリはさらなる進化を遂げるかもしれません。2050年には、統合失調症や認知症のような精神疾患に対して、脳のニューロンに直接好ましい刺激を送り届けて改善を促す装置が登場してもおかしくないでしょう。体内埋め込み型もあり得ます。薬漬けになってしまうことなく、電気信号の原理に基づいて根治を目指すことができる。そんな未来は決して夢ではありません。心身の両面で電気信号を戦略的に捉えていけば、そこに新しい医療の形が見えてくるはずです。Yasushi Okamura2008年より大阪大学大学院医学系研究科 統合生理学 教授。生体の電気信号を担う膜タンパク質の分子メカニズムが研究対象。2005年と2006年、世界に先駆けて2つのユニークな電位依存性タンパク質を発見した。2019年には精子が電気信号を感知する特殊な仕組みを突き止め、不妊治療への応用が期待されている。イオンが切り拓く医療の未来︒岡村 康司大阪大学大学院医学系研究科生理学講座 統合生理学 教授心も身体も、心も身体も、電気信号で治療できる。電気信号で治療できる。

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